エルヴィス、我が心の歌の映画専門家レビュー一覧
エルヴィス、我が心の歌
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で共同脚本を務めたアルマンド・ボーの長編初監督作。自分がエルヴィス・プレスリーの生まれ変わりと信じて疑わない男が、家族と離れ離れになりながらも大きな夢を追い続ける姿を映し出す。主人公カルロスを演じるのは、アルゼンチンでエルヴィスのトリビュート・アーティストとして実際に活躍しているジョン・マキナニー。撮影は「人生スイッチ」のハビエル・フリア。
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
題名だけ見て、てっきりエルヴィスの伝記映画だとばかり思っていたら、全然違っていた。監督アルマンド・ボーはイニャリトゥ作品の共同脚本を手掛けてきた人とのことだが、どういう要素を担っているのかなんとなくわかる気がする。妄執の物語であり、絶望の物語であり、狂気の物語なのだが、なぜ今になってエルヴィスなのかといえば、ジョン・マキナニーという存在ありき、ということなのだろう。この人、歌は確かに上手い。しかしこのラストは好きではないな。安易じゃないですか?
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映画系文筆業
奈々村久生
自らをプレスリーの生まれ変わりと信じる男の寝顔が印象的だ。事故で生死をさまよう妻の手術中も、妻の意識回復を待っている間も、その妻が意識を取り戻すときも、彼はいつもぼんやりと眠っている。現実の厳しさから常に半歩逃避してきたような彼の中に流れる時間がその寝顔に垣間みられる。「キング・オブ・コメディ」や「タクシードライバー」的な主人公の思い込みの激しさが喜劇にもヒーローにも結びつかなかった悲哀が染みるが、ナルシシスティックなラストが惜しい。
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TVプロデューサー
山口剛
そっくりさん映画と思って見て打ちのめされた。静かな哀しみに満ちた映画だ。他人の人生を模倣するしか生きるすべのない男の悲劇が身に迫る。初監督のアルマンド・ボーはA・G・イニャリトゥの「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の脚本家と知り納得。他人の人生を生きるという意味では俳優も同じだ。自己回復に苦闘するマイケル・キートンと死を選ぶこの映画の主人公J・マキナニーはまさに表裏一体。エルヴィスファンのみならず全映画ファン必見の傑作。
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