誰のせいでもないの映画専門家レビュー一覧
誰のせいでもない
ヴィム・ヴェンダース監督が3D技術を用い製作した人間ドラマ。ある雪の日、作家のトーマスが車を走らせていたところ、突如子どもが飛び出してくる。事故を契機に、トーマス、彼の恋人サラ、編集者、子どもの母の人生が変わってしまう。2D/3D同時公開。罪の意識に苛まれるトーマスを「127時間」のジェームズ・フランコが演じるほか、「ニンフォマニアック」のシャルロット・ゲンズブール、「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」のレイチェル・マクアダムスらが出演。ヴェンダース監督が栄誉金熊賞を授与された第65回ベルリン国際映画祭(アウト・オブ・コンペティション)でワールド・プレミアされた。
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翻訳家
篠儀直子
冒頭の事故のくだりは猛烈な素晴らしさで、このままバーナード・ハーマンみたいなデスプラの音楽に乗って心理スリラーになるのかと思いきや、人の思いも考えも、長い長い年月をかけて変化するものだと言うかのごとく、ヴェンダースは悠然と時を操る。よもやこれは成瀬? まさかムルナウ? と思っても、何もかもがこちらの予想を裏切り、想像もしなかった境地へ連れて行かれる。3Dが人工的なスペクタクル性ではなく、ぬめるような独特の生々しさを映画にもたらしているのも面白い。
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映画監督
内藤誠
不可抗力な交通事故で子どもを死なせた主人公(ジェームズ・フランコ)は法律とは別にひどいトラウマを抱える。しかし彼は作家で、周囲の人たちの心配をよそに、書く小説が良くなるのだ。このあたり、ヴェンダースのキャリアからくる本音が出ていて興味深い。歳月を経て、もっとも傷が浅いと思われていた少年のサスペンスフルな登場もみごと。ラストシーンのフランコの笑顔を見ていると、彼自身による事故であっても、この作家は小説を書くことで生きのびただろうと思えて怖くなる。
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ライター
平田裕介
身も蓋もない題名で、中身もそうとしかいいようがない。他人を不幸にしてしまった過去の出来事をプラスなものへと転化させる作家の性も、そういうものだとしかいいようがない。そこはかとなくサスペンス味のふりかけを掛けてはいるが、どうしてもヴェンダースならではのダルくてチンタラした感じが強いので、個人的には苦痛の二時間弱。ただし、窓から差し込む光にまばゆく反射する部屋のホコリ、白銀の街に舞い散る粉雪……といった3Dで捉えられた圧倒的な風光明媚には息を飲んだ。
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