湾生回家(わんせいかいか)の映画専門家レビュー一覧
湾生回家(わんせいかいか)
台湾で異例のロングランヒットとなったドキュメンタリー。1895年から50年に渡り日本が統治していた台湾で生まれ育った約20万人の日本人“湾生”は敗戦後、そのほとんどが日本に強制送還された。そんな湾生たちの里帰りを追い、望郷の念をすくい取る。金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート、大阪アジアン映画祭2016観客賞受賞。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
台湾で生まれ育った20万日本人子弟「湾生」の現在を追う。彼らの望郷の念は尋常ではなく、戦前戦中の台湾が極端に桃源郷と化している。名門の台北第一校女に通学した令夫人は自らを「異邦人」と位置付けていた。その自称は、植民地入植者の子弟という加害者としての立場に立脚しつつも、台湾の風土と友たちを慕い、戦後に帰国した日本を異郷と思わずにいられない無念さの表象であろう。作者は多分に親日的。殺伐たる現代極東情勢において、日台の奇妙な相互慰撫は洞察に値する。
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脚本家
北里宇一郎
戦時中、台湾で生まれ育った日本人たちの郷愁のドキュメント。今は年老いた者たちが彼の地が楽園だったと口を揃えて懐かしがる。台湾の人たちも、それを自分たちの喜びとして受け止める。いい話である。けど、日本に統治されていた時代のホンネも聞きたかった。戦後生まれの監督は、いろいろあったけど、もういいじゃないかという。その赦しが逆にこの映画の物足りなさとなって。日台双方から見た“戦時”を描いてほしかったのだが。もう十年、二十年前にこれが作られていたらと思う。
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映画ライター
中西愛子
戦前台湾で生まれ育った約20万人の日本人のことを湾生と呼ぶ。戦後、未知の祖国・日本へ強制送還された彼らのいまを取材し、望郷の思いを丁寧に掬いとったドキュメンタリー。湾生の人たちのさまざまな人生。台湾製作だからこそ踏み込め、映し出せたと思われる、それぞれの背景の複雑さと豊饒さに引き込まれる。同時に、教科書ではわからない日本と台湾の関係も新たな角度から見えてくる。湾生の父を持つ娘さんの“アジアで日本が嫌いじゃない国もあるんだ”という言葉も印象に残った。
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