ハドソン川の奇跡の映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
事実を映画にしただけで、これほどまでに格調高く現代的な「映画」が現出するとは。イーストウッドは「演出」の映画作家だ。演出という言葉の意味は、単に俳優の演技を引き出すことではない。カメラワークや編集も含めて、登場人物の豊かで複雑な内面を、観客の視線の前に押し広げてみせることである。ほんの僅かな間の取り方や、微妙なフレーミングによって、映画にしか可能でないドラマが鮮やかに浮かび上がる。名優トム・ハンクスはこの映画に出られて、さぞ誇らしかっただろう。
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映画系文筆業
奈々村久生
イーストウッドの映画はいつだって自分だけの正義を貫く者たちの物語だ。トム・ハンクス演じる機長のハドソン川着水という判断は、機内での一部始終を観ていると、それが彼の経験と能力に基づいていたとしても、根拠はほとんど直感と言っていいものに思える。おそらくそのように撮っている。そして彼の窮地と観客を救ったのは判断力よりもテクニックよりも「信じる」力の強さなのだ。白髪のハンクスと口ひげをたくわえたエッカートが着水後の川岸にたたずむ生々しさがたまらない。
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TVプロデューサー
山口剛
トム・ハンクスの演じる家庭を愛し、信念を貫く寡黙な男は、まさにゲイリー・クーパーやジェイムス・スチュワートたちが演じてきたアメリカ映画の伝統的ヒーロー像の再現だ。ハドソン川への着水シーンの撮影は見事だし、シミュレーション映像を使った調査委員会シーンも緊迫感があって、トム・ハンクスがいつしか「ファイヤーフォックス」や「スペース・カウボーイ」のヒーローに重なって見えてくる。流石はクリント・イーストウッド、間然するところない1時間36分であった。
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