92歳のパリジェンヌの映画専門家レビュー一覧

92歳のパリジェンヌ

フランスの元首相ジョスパンの母の人生を、娘のノエル・シャトレが綴った『最期の教え』を原案にしたドラマ。穏やかな老後を過ごすマドレーヌが92歳の誕生日、お祝いに集まった家族に、自分の人生に幕を下ろす決意を打ち明けたことから波紋が巻き起こる。出演は「仕立て屋の恋」のサンドリーヌ・ボネール、84歳にして現役で活躍するマルト・ヴィラロンガ(「溺れゆく女」)。監督は、女優としても活躍するパスカル・プザドゥー。フランス映画祭2016で、エールフランス観客賞を受賞している。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    どうして最近の映画って「実話」がこんなにも多いのだろうか。良く出来た話にフィクションもノンフィクションもないとは思うが、なんとなく「事実」に対する「虚構」の持ち得る力が全世界的に弱まっているような気もしてしまい、少し寂しい。92歳の誕生日を迎えたマドレーヌは、病気でもないのに、2カ月後に自らあの世に旅立つと宣言する。そこから起こる悲喜劇。マドレーヌの気持ちがわかる人って結構多いのではないだろうか(自分もです)。娘役のサンドリーヌ・ボネールが良い。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    超高齢化社会となりつつある現代社会において、命の終わりを決めるのは医師なのか、意志なのか。医学による死のコントロールが認められるならば、それを選択するか否かの個人の意志も尊重される必要がある。高齢者という集合体の象徴ではなく、あくまでも一人の人間のパーソナリティとして、その闘いを描いているのが面白い。冒頭いきなり本題に入る語り方や、同時に起きていることを同じ画面の中で一度に写すのではなく映画ならではの複眼的な視点でつないだ編集も上手い。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    ヒロインの老女は他人の助けを借りねば生きられなくなったら自らの手で人生に終止符を打つと決意し、家族に死ぬ日を告げる。家族は皆狼狽するが、高校生の孫息子だけが祖母の意図を素直に理解する。自死を決意した老女の話だが、決して暗くなくユーモラスな家庭劇になっている。宗教的、司法的問題もあるだろうが、介護社会に住む我々にとっても切実な問題だ。若い頃は政治運動もし、華やかな恋愛もあったらしい彼女の過去をあえて描かず、全て観客の想像に委ねているのもいい。

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