ティエリー・トグルドーの憂鬱の映画専門家レビュー一覧
ティエリー・トグルドーの憂鬱
ヴァンサン・ランドンが社会の厳しさの中で板挟みになる中年男を演じ、第68回カンヌ国際映画祭主演男優賞を獲得した人間ドラマ。失業したティエリーは苦労の末にスーパーの警備員として再就職。不正を告発した従業員が自殺し、会社の厳しい姿勢に疑問を抱く。ステファヌ・ブリゼ監督とヴァンサン・ランドンが「母の身終い」以来のタッグを組んでおり、ブリゼ監督もキリスト教徒の審査員が選ぶ同映画祭エキュメニカル審査員賞を受賞した。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
失業者の再就職先がブラックな業務だったらどうするか? 暗澹たる世相を映す日本映画に似たフランス映画である。主人公はスーパーに再就職するが、万引き客をトッちめたり、レジ係のちっぽけなチョロマカシを告発して得点稼ぎしなければならない。熟練エンジニアだった彼からすれば、プライドをズタズタにされるが、節を曲げずに我を通そうとする。しかし現代映画では、主人公の立派な態度表明では収まらない、ひとつの決断がもたらす宿命の果てにまで帯同したいとも思う。
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脚本家
北里宇一郎
「アスファルト」がカウリスマキ・タッチなら、こちらはダルデンヌ兄弟風。リストラされた中年男が、職探しをする姿が淡々と描かれて。この静けさが、主人公の憂鬱とやるせなさをじわじわ沁みさせる。この男の抑えに抑えた感情が、最後にぱっと爆発するが、そこも静けさの範疇の激しさで、かえって余韻を残す。ただどうも、映画のスタイルを優先しすぎという気が。ドキュメンタルな方法に安住して、中身の煮つめ方が不足している感じがする。いい映画だと思うけど、味付けが淡白すぎ。
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映画ライター
中西愛子
リストラされて失業中の中年男が、再就職をめざす。普通の人々の職という題材、ドキュメンタリー・タッチのスタイルに主人公のみ人気俳優を配す点は、「サンドラの週末」に似ている。主演のヴァンサン・ランドンがいい。社会のパンチを食らい続ける役だが、ベテラン二枚目俳優の愛嬌みたいなものが、役柄に備わる純真な図太さにふと折り重なる時、ひどく悲惨な物語に光明が射す。特に、家族のシーンで見せる魅力には胸を打たれる。監督ステファヌ・ブリゼの人間を切り取る力は本物だ。
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