エル・クランの映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
ブエノスアイレスの高級住宅街で、ある一族が連続誘拐をファミリービジネスとする。面白いのは、この名家が、独裁政権時代に甘い汁を吸ったエリート官僚一家であり、民主派のアルフォンシン政権誕生によって失脚した点だ。彼らは裕福な暮らしを維持するために誘拐身代金を必要としたが、同時に彼らの「ビジネス」は、民主政権下の社会不安を煽るため、旧政権の大物から庇護を受けていたことが匂わされる。単なる犯罪スリラーとするには裏があり過ぎるのが興味深い。
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脚本家
北里宇一郎
こちらはアルゼンチン。政権が転覆して失職した高官が、誘拐ビジネスに手を染めるというおっかない話。ロックをギンギンに駆使した演出が刺激的。平穏な家庭描写の中に、血なまぐさいカットが紛れ込む、そのブラックな趣向が面白い。が、ちと演出が押せ押せすぎて、疲労感も。主人公が官僚時代にどういう役割を担っていたのか。そこを描いてれば、事件の背景がもっと分かるんじゃないかとも。ま、父に対する息子の存在が、独裁政権下の官僚に重なって見えたけど。キンクスの歌が嬉しい。
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映画ライター
中西愛子
1980年代初頭、アルゼンチンで実際にあったプッチオ家の事件を基にした衝撃の物語。独裁政治下で公職を務めていた父アルキメデスは、政府転覆後、失業。市民を誘拐・身代金要求・殺害することで財を維持し始める。しかも家族ぐるみで。モンスター父は映画でよく描かれるが、この父はワースト級。家族を見捨てる父と、保身ゆえ家族を犯行組織にしていく父とどっちがひどいだろう。本人はむしろ愛と思っているようだし。特に、プッチオ父と長男の絆の宿命は鮮烈で鑑賞後も尾を引く。
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