八重子のハミングの映画専門家レビュー一覧

八重子のハミング

山口県萩市を舞台に、四度のガン手術を乗り越え妻を約12年間介護した陽信孝の手記を「半落ち」の佐々部清監督が映画化。八重子が若年性アルツハイマーであることが判明。闘病を続ける夫の誠吾は、近寄る死の影を見据えつつ、病が進行する妻を支え共に歩む。「群青色の、とおり道」でも佐々部監督と組んだ升毅と「パイレーツによろしく」以来28年ぶりの映画出演となる高橋洋子が、夫婦の強い絆を表す。2016年10月29日より山口県先行ロードショー。
  • 映画評論家

    北川れい子

    上映中、すすり泣く声が聞こえた。記憶を無くしていく妻を12年間、支えた夫の実話。近年、認知症の介護をめぐるやりきれない事件が多いだけに、妻に寄り添い続ける夫の姿、すごいことだな、と思う。が、冒頭だけではなく、劇中に何度も出てくる夫の講演シーンが、一種の売名行為に見えてしまい……。講演の内容は、妻の世話をする自分のことや、妻の話。ときには講演の場に妻を同伴したりも。そもそももし介護者が妻や娘なら誰も講演の依頼はしないだろう。講演目的で介護を続けたような。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    神代辰巳映画と「北陸代理戦争」のヒロイン高橋洋子。「北陸~」で敵方やくざに切り刻まれた松方弘樹が潜伏先にて、これが俺の健康法や、と血を吐きながら素っ裸に雪をこすりつけているのを、無茶やっ、死んでしまう!人間は死ぬんやっ!とかき抱いて止めた高橋洋子の二十八年ぶりの出演。どうかと思って観れば、すごい難役を見事にやっていた。重いアルツハイマーを言葉なしで演じていた。実話があり原作があるが、たしかにこれは映画化されるべきだ。言葉を超えた境地のために。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    佐々部監督は「中高年が主人公だと地味」という理由から大手映画会社の資金を得られず、自己プロデュースに至ったという。この経緯自体、現代日本の高齢化社会における介護のあり方とどこか似ている。重要だけれどなるべく視界に入れず、あたかもないように振る舞う。この夫婦はそのことにも果敢に闘っていると解せる。終盤に向かって痴呆が徐々に自己を失わせてゆく高橋洋子、対して「ゆっくり時間をかけてお別れをする」ことを体現した升毅。本作は役者の演技を観る映画でもある。

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