五島のトラさんの映画専門家レビュー一覧
五島のトラさん
長崎・五島列島に住む家族を22年間追い、第24回FNSドキュメンタリー大賞グランプリに輝いたテレビ長崎製作の番組を、劇場用に再編集。子育ての一環として7人の子供たちにうどん製造を手伝わせる犬塚虎夫の一家に密着、島に生きる家族の風景を収める。ナレーターは「バルトの楽園」の松平健。一家をモデルにした2011年のテレビドラマ『さだまさしドラマスペシャル 故郷 ~娘の旅立ち~』では、父役を演じた。2016年6月18日より長崎先行公開。
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映画評論家
北川れい子
「夢は牛のお医者さん」「ふたりの桃源郷」など、長期取材をしたテレビドキュメンタリーには、そこらの劇映画など足元にも及ばない親近感がある。取材対象者の成長やその変化が歳月を早送りして編集され、しかもカメラがその人たちの人生のある種の“見守り”的な役目も果たしている。特に本作はそれが顕著で、トラさん夫婦とその子どもたちは、定期的にカメラに撮られることで、ずっと家族という関係で行動し、反抗はしても逃げられない。それだけに、もしトラさん家にカメラが入らなかったら、とも思う。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
昔からテレビで人気の大家族ものドキュメンタリーにはどこか珍奇さがあるものだが、このトラさん一家はそうではない。世間に出たときにきちんとできる人を育てるという感覚がちゃんとある。本作はその部分が撮れている。あの教育への信念は見習いたい。トラさんが七人目の子をもうけた年齢でいま自分は子が一人、もうこれ以上子を持てないし、この子が独りでもやっていけるようになるまでまだ先は長い。犬塚虎夫氏も家族みんなもすごい。無名の、しかし偉大な家族史の映像記録。
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映画評論家
松崎健夫
本作は「人間の本来あるべき姿は、島の暮らしの中にある」というステレオタイプなメッセージを発する類いの作品ではない。特殊な家族像を撮り始めたはずが、結果的に普遍的な家族像を描くに至った作品なのである。親も子も其々が葛藤し、その葛藤は次の世代にも引き継がれてゆく。それは継承のあり方だけでなく、人が成長し変化してゆかねばならないことをも悟らせる。自らが親になって初めて気付く親の気持ち。奇しくもそれは〈死〉=〈不在〉の後を描いているからこそ悟るのである。
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