ありがとう、トニ・エルドマンの映画専門家レビュー一覧
ありがとう、トニ・エルドマン
第69回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を始め、各国で数々の賞に輝いたヒューマンドラマ。悪ふざけが大好きな父が、娘を心配しブカレストを訪れる。数日間一緒に過ごし父はドイツに帰るが、娘のもとに<トニ・エルドマン>という別人になった父が現れ……。監督・脚本は「恋愛社会学のススメ」のマーレン・アデ。出演は「三人姉妹(1988)」のペーター・シモニシェック、『裸の診察室』のザンドラ・ヒュラー、「ボーグマン」のハーデウィック・ミニス、「エンジェル(2007)」のルーシー・ラッセル、「エリザのために」のヴラド・イヴァノフ。
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
上映時間162分が全然長く感じない。だが考えてみると何故長く感じなかったのか不思議に思えてくる。だって基本、ヘンな父親が娘の邪魔をしてるだけなんだから。ドイツ的なユーモアと言っていいのかどうかわからないが、これって笑うところだよねといちいち脳内で納得してからやっと笑える感じに慣れてくると、ラストに爆笑と感涙が待ち構えている。父親役のペーター・シモニシェックはもちろん素晴らしい。だが映画の鍵を握ってるのは娘を演じたザンドラ・ヒュラーだ。傑作だと思います。
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映画系文筆業
奈々村久生
トニ・エルドマンという人物をどうとらえるかで見方は大きく変わる。初老で巨体の男性が普段からそこそこ手の込んだ(素人にしては)仮装と芝居で他人を驚かせていたらいたずらでは済まされない。奇行レベルだ。それに対してヒロインである娘は極めて常識的な現代の働く女性であり抱える悩みも切実。とはいえ女性の痛々しさ=リアルではない。そう見える瞬間がなくはないのだが、ザンドラの好演は支持したい。個人的には笑えなかった。が、新しく珍しい体験ができることは確か。
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TVプロデューサー
山口剛
悪戯好きで怪しげな変装で娘の行く先々へ出没する変な父親、似た映画が思い浮かばないユニークな映画だが、根底は仕事一途の娘を案じる父親の気持という小津映画にも似た世界である。情緒に訴えず、笑わせよう泣かせようというクリシェを使わないで、想像もつかない展開と笑いで二時間四十二分持たせる脚本演出は見事で、気がつけば厄介者の困った親爺にいつしか感情移入している。ジャック・ニコルソンがリメイクをするそうだ。適役だとは思うが、果たして本作を越えられるか。
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