ナラタージュの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
「私、先生の力になりたいんです!」とは、教え子・泉の台詞。ふつうは、先生が“キミの力になるよ”と教え子に言うところだが、教え子側に先生への強い恋情があると立場が逆転、しかもこの先生、困ったことにズルいほど優柔不断で、互いに相手を振り回しつつ振り回され。ロケ地・富山のどこか湿気を含んだ空気が2人の関係を密室化。行定監督、その辺りの演出も巧み。泉の回想形式で進行する恋の?末が、感傷とも悔恨とも異なるのもユニーク。使い捨てのような坂口健太郎がチト哀れ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
基本穏やかふうのいい娘キャラでそういう佇まいなので、そこにつけいるもしくは惹きつけられる男たちがしばしばごにょごにょと彼女に言い寄るが、そういうときに有村架純は西洋絵画に描かれる、悪魔からの誘惑の囁きを受けた修道士のように、半眼の伏せ目で、放心したような、完璧な判断中止の表情をとるが、実際これこそが悪魔に抗するのに最適な態度だ。これが結構得意のムーヴとなっている有村嬢はもはや若い女の子のおつかれな恋愛を聖なる戦いにまで高めたと言えるだろう。
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映画評論家
松崎健夫
この映画では、有村架純のうしろ姿が何度も描かれている。彼女の表情が見えないため、おのずと我々は彼女の表情を想像する。その〈不確かさ〉が、ふたりの男性の間で揺れ動く彼女の〈不確かさ〉と重なってゆくのである。ラスト、電車内で彼女が訣別をひとり悟る場面。カメラは有村架純の顔をとらえ、“表情の変化”という決定的瞬間を撮影する。その表情が映えるのは、それまで“感情の変化”という決定的瞬間をあえて撮影してこなかった演出の賜物であることは言うまでもない。
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