うさぎ追いし 山極勝三郎物語の映画専門家レビュー一覧

うさぎ追いし 山極勝三郎物語

世界初の人工癌の発生実験に成功した病理学者・山極勝三郎の生涯に迫る伝記ドラマ。江戸から明治への転換期。長野県上田市で生まれ育ち16歳で上京、町医者の娘・かね子と結婚した勝三郎は、東京帝国大学で学び、自ら結核を患いながらも癌研究に没頭してゆく。出演は「ギャラクシー街道」の遠藤憲一、「ゴジラ FINAL WARS」の水野真紀、「ストレイヤーズ・クロニクル」の豊原功補、「おとぎ話みたい」の岡部尚、「赤い玉、」の高橋惠子、「桜田門外ノ変」の北大路欣也。監督は「エクレール・お菓子放浪記」の近藤明男。2016年11月5日より長野県先行公開。
  • 評論家

    上野昻志

    癌が作れれば、癌を治せるという信念のもと、実験によって人工癌を発生させ、その後の癌研究に道を開いた山極勝三郎という人のことを、本作で初めて知った。その点では、ありがたかったが、前半の、信州上田から、東京の山極家に婿養子として上京し、東京帝国大学の医学生になる若き日の勝三郎役の演技が、悪いけど学芸会並みで、物語の牽引力を削いだ。あと、兎の耳で実験を重ねるという本筋で、病気による兎の死以外に前途を危ぶませる問題がなかったのか気になった。

  • 映画評論家

    上島春彦

    公式的な偉人伝でなくユーモアあふれるのんびりした感じを目指しているのに好感。賞を取れなかった人というフェイントが効いているわけだ。だがそういうのは難しいんだね。立派な人でした、という線を最終的に避けるわけにはいかないから。それで星が伸びなかったものの、お菓子のつもりでうっかり正露丸を食べてしまい、その瞬間実験動物の色を変えることを思いつく脚本が上手い。最初から金平糖と主人公の関係で話を進めていく作りである。教育レベルの高い上田市ならではの企画だ。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    かつて神山征二郎が撮っていたような立身伝映画のバリエーションなので真面目な作りだが、エンケンと岡部尚が中心に来る配役がとんでもないので良い意味で古めかしさが無い。エンケンに学生服を着せて晩年まで演らせるのも支持。映画はこうでなくては。低予算映画で江戸東京たてもの園を使用すると観光地的アングルそのままに無造作に撮っていて興ざめすることがあるが、本作はちゃんと構図を工夫して空間的広がりにも留意し、映画屋なら当然と思えない事が多い昨今、技倆を感じる。

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