エゴン・シーレ 死と乙女の映画専門家レビュー一覧
エゴン・シーレ 死と乙女
28歳で早逝した画家エゴン・シーレの名画『死と乙女』に秘められた愛の物語を綴る伝記ドラマ。16歳でヌードモデルを務めた妹ゲルティと、クリムトから紹介されたモデルのヴァリとの濃密な愛の日々を通じて、芸術を追求し続けるシーレの姿を赤裸々に炙り出す。シーレ役は、モデル出身の新人ノア・サーベトラ。撮影を「わが教え子、ヒトラー」のカーステン・ティーレ、音楽を「コロニア」のアンドレ・ジェジュクが担当。ミヒャエル・ハネケ監督の『セブンス・コンチネント』などで俳優としてのキャリアを持つディーター・ベルナーが監督を務める。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
史実に忠実な内容だとのこと。しかし芸術家の生きざまに取り組む場合、忠実さだけではじゅうぶんではない。溝口「残菊物語」の花柳章太郎の、ルノワール「黄金の馬車」のマニャーニの正面ショットが有する華やぎの中の残酷を、あるいはベッケル「モンパルナスの灯」の坂道を来るG・フィリップに照りつけるニースの陽光を、映画は欲する。本作はE・シーレへの共感という点で人後に落ちないが、残酷な運命に目を向けてはいても、目を向けることそのものの残酷さが不足している。
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脚本家
北里宇一郎
これは“シーレをめぐる四人の女”か。八〇年の前作に較べて、ぐっと妹の存在が重くなっている。近親相姦的親密さの思春期から、庇護者的存在となるシーレの晩年まで、陰で支え続けた妹がもう一人の主役に見えて。隣家の令嬢と結婚の経緯も、前作は純愛、今回は打算と実録風。代わりに同棲中のモデルの彼女との関係が深くなっている。もう一人の黒人モデルはシーレから妹を引き離す存在か。てな具合にシーレと女性たちの関係に絞った構成には納得。もう一つ人間描写の彫りが浅い気も。
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映画ライター
中西愛子
エゴン・シーレの画は、死とエロスの匂いが漂う中に、どことなく少女が近づきやすい甘さがあって、かつて私も魅了されたクチだ。さまざまな娘たちの心をつかみ、自身の芸術性を磨き、画家として大成していくシーレの純粋な情熱としたたかさが、ドラマチックに描かれる。シーレ役の俳優ノア・サーベトラが素敵。監督は彼を気に入り、役のためにわざわざ演劇学校に通わせたのだとか。まだ色のつかない美しさが映える。シーレのそばに長くい続けた女性ヴァリの誇り高さもカッコいい。
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