残像の映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
私はけっしてワイダの良い観客ではなかったが、遺作となった本作を観ているとやはり感慨深い。実在のポーランドの前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの伝記映画で、この人物のことは知らなかったが、圧政的な社会主義政権に批判的なスタンスを保ちつつ芸術活動を続けることの困難を毅然として受け入れたその生きざまは、ワイダ監督自身が範としたものでもあるだろう。芸術を信じ、その進歩を信じ続けることが、そのまま政治的であるしかなかった時代の、ある闘いの記録。
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映画系文筆業
奈々村久生
戦争で失った片脚のハンデをあざ笑うかのように豪快に山肌を転げ降りてくる初老の前衛画家。皮肉に満ちてかつユーモラスなこのシーンはやがて笑いの余地もないほど文字通り現実となっていく。圧迫に抵抗しながらも追い詰められていく反骨の画家の姿はこれが遺作となった監督ワイダとも重なる。窓の外に広がった赤い闇を切り裂くことはもはや死を意味するのか。昨今の情勢を生きていて体制により自由が脅かされる恐怖をこれほどまでに切実に感じたことはかつてない。
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TVプロデューサー
山口剛
国家主義、全体主義、端的に言えばスターリン主義への怒りを込めた批判を生涯続けてきたワイダにふさわしい遺作だ。教え子に慕われる人間味豊かな老画家は体制に服従しないため様々な迫害を受け食事にも事欠く。時代の波に抗いながら懸命に父に尽くす幼い娘の愛らしい姿にワイダならではの暗いリリシズムが漂う。あろうことかスターリンの肖像の修整をする父、その眼下を無邪気に赤旗を掲げてインターを歌いながら行進する娘。それを聞く画家の複雑な表情は忘れがたい。
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