話す犬を、放すの映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
84分という時間の中で、三人の女性の姿がくっきりと浮かび上がる。中心は、幻覚症状などが現れる認知症の母(田島礼子)と、演劇の指導をしながら、映画に出演する機会を得た娘(つみきみほ)との関係にあるが、母親が、スーパーで赤ん坊を抱くシーンも、監督の娘を遊ばせる場面と繋がって自然に見えながら、微妙なサスペンスを孕む。それを機に、映画の仕事を降りる娘の心情も素直に胸に落ちる。認知症が、娘が母を理解する契機になることをリアルかつユーモラスに描いて○。
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映画評論家
上島春彦
よく知っている人が「偽者」に見えてしまうカプグラ症候群というのは、映画的には幻覚より地味だがもっと興味深い。映画というメディアがそもそもそういうものだからなのか。或いは母と娘というのは本来同一個体の分離だからなのかも。娘の「偽者」というお母さん独自の感覚が、この企画の実は隠し味になっている。そこからの快復が重要で。つみき(娘)が情熱型で田島(母)が理性の人、という演技の方向性(のくい違い)がうまく機能しショッピングセンターの場面とか見応えあり。
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映画評論家
モルモット吉田
俳優ワークショップで指導するつみきみほは「櫻の園」の杉山紀子のその後を見ているようだ。自分が原因の喫煙事件で上演が危ぶまれた時のようにクールに突っ張る齢でもなくなり、母のレビー小体型認知症の発病で久々の映画出演に専念できなくなる。監督の母が同様の症状らしいが病をこれ見よがしに描かないのが良い。幻視という特徴も、ごく自然にそう見えるものとして即物的に映す。劇中の監督は子育てと映画を両立させているだけに、つみきにもう少し希望を与えてほしかったが。
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