未来よ こんにちはの映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
ミア・ハンセン=ラヴもまた女優から監督へと見事な転身を遂げたひとり。むしろ今が黄金期だと思えるイザベル・ユペールを主演に迎えて、高校の哲学教師が見舞われる突然の人生の転変、そして新しい自己との出会いを、わざとらしさ皆無の落ち着いた語り口とナチュラルなタッチで丁寧に物語る。しかしこんな細部までハッタリ抜きに知的な作品を観ていると、フランス映画の或る種の豊かさと同時に、某国の貧しさを意識せざるを得ない。哲学がスノビッシュにしか消費されない貧しさを。
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映画系文筆業
奈々村久生
年齢を重ねた女性の生態を、特異なキャラクターではなく普通の人間のこととして描くドラマが成立するのはヨーロッパ映画の豊かなところ。そこにはそれを体現できる女優の存在が不可欠だ。大女優であるはずのイザベル・ユペールが実にナチュラルに(リアルに、ではない)そのポジションをものにしていて、彼女が女優を続けていく限りその年齢に応じた新しい女性映画のジャンルが開拓されていくのではないか。母親の忘れ形見である黒猫のサイズが異様に大きくてなんだかいい。
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TVプロデューサー
山口剛
介護、離婚、家族の死、学問的行き詰まり、様々な問題を抱えながら未来を信じユーモアを忘れないで生きるヒロインの知性に感銘する。哲学教授だからの知性ではない。老いは万人に訪れるが、それを受け入れる覚悟が見事だ。去ってゆく夫に「仕事があるかぎり幸せだ」と言う。彼女の孤独と矜持をカメラは自然の中で美しくとらえる。シューベルトを始め挿入歌が効果的だ。政治には口をつぐんでいる彼女だが、急進的政治思想に傾斜しつつある愛弟子に、映画は未来を託しているようだ。
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