熊野から ロマネスクの映画専門家レビュー一覧

熊野から ロマネスク

田中千世子監督、海部剛史主演によるセミ・ドキュメンタリー「熊野から」の続編となる劇映画。「コードネームはクローディーヌ」と名のる若い女に吉野で出会った海部は、それを旅の雑誌に書く。すると編集部に「私こそクローディーヌ」と書かれた手紙が届く。出演は、「浅草・筑波の喜久次郎 浅草六区を創った筑波人」の雨蘭咲木子、「まいっちんぐマチコ! ビギンズ」の鈴木弥生。
  • 評論家

    上野昻志

    確かに、監督の中にある文学に拘った意欲的な作品ではある。だから、登場人物のモノローグや『死者の書』の朗読に比重がかけられ、画面構成には力点を置かない、というか、言葉のつながりでわかるだろう、と腹を括った作りだ。むろん、そういう映画があってもいいとは思うが、それにしても、人物が出てくれば、並んで話をするか、向き合って話をするか、一人で遠くを見つめるか、というショット中心では、物語そのものが動かない。また、録音の関係か肝腎の言葉がくぐもって聞こえる。

  • 映画評論家

    上島春彦

    このところ必要があって『死者の書』を読んでいたのだが、折口が推敲して構成を変えていたとは知らなかった。変更により死者の甦りの生々しさが出たのだ。この一連の企画は見た時はスルーしてしまっても、後続する作品で新たな意味が付与されたりして侮れない。急逝した能役者の件とか、一人で歩いている時に死んだ友人が共にいるのに気づいた件など。記録映画というよりシネ・エッセイに近いか。物語としてはすれ違いの恋というか、すれ違うことで恋に思えてしまう勘違いの面白さ。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    ドキュメンタリーの中にフィクションが入っているなら兎も角、教授と生徒などが登場するドラマが大半を占める作品としては、同じ鈴木一博撮影でも設定も含めて共通項がある福間健二監督作のように女性たちを輝かせてくれるなり、土地の風景の中に流れる風を感じさせてくれるなりすれば魅力を感じたのだが。ドキュメンタリー部分が持つ力、とりわけ新宮のお燈祭りでの石段を転げ落ちる男たちの荒々しさを捉えたショットが持つ力強さなどに比べれば、フィクション部分が総じて低調。

1 - 3件表示/全3件