ぼくらの亡命の映画専門家レビュー一覧

ぼくらの亡命

第11回東京フィルメックスグランプリを受賞した「ふゆの獣」の内田伸輝が監督・脚本を務めた自主制作映画。東京郊外の森でテント暮らしをする昇は、ある日、美人局をしている樹冬に興味を持つ。樹冬は騙されていると思った昇は、彼女を助けようと誘拐する。出演は、「野火」の須森隆文、「リアル鬼ごっこ」の櫻井亜衣、「女が眠る時」の松永大輔。第17回東京フィルメックス・コンペティション出品作品。
  • 映画評論家

    北川れい子

    アメリカの作家ハーラン・エリスンのSF小説『世界の中心で愛を叫んだけもの』の、中身ではなくタイトルだけをチラッ。そういえば内田監督の前作のタイトルは「ふゆの獣」。どうも内田監督は、いわゆる公序良俗とか、常識的人間には関心がないようで、今回も自立できない他力本願人間を中心において、ナリフリかまわず愛を叫ばせる。それが作風、個性なのだろうが、だからか、最後までこの映画には近づけず、近づく気にもなれなかった。あゝ“亡命”なることばの無意味な軽さよ。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    良い。うまくもないし予算がそんなにないであろうことも透けて見える。しかし、独自の見せ方でひとつの世界をつくっている。粗さのある画面はその粗さの狙いのまま美しい。第一の主演(主役的存在感が前半後半でリレーされる)須森隆文が、もう、濃い。濃すぎ。いや、他の映画が薄いのだ。須森が後半の主役櫻井亜衣を追って他人の家に乱入するところには「明治侠客伝?三代目襲名」の、人物三人が砂浜でもつれあうところには「恋人たちは濡れた」のドライヴ感を感じた。好きな映画だ。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    前半の舞台は都会。街には人が溢れ、主人公たちは雑踏を彷徨う。他人に依存することでしか人と人が繋がれない孤独を描いた本作だが、雑踏の他者は主人公たちの存在を意識しない。人は沢山いるのに隔絶されたかのような孤独。実際の街中で撮影し、そこに人が溢れているからこそ彼らの孤独が際立っている。後半の舞台は浜辺。人も疎らな寂寞とした風景もまた彼らを孤独にさせる。結局、人がいてもいなくても同じなのだ。本作のカメラは、そんな現代の孤独を覗いているかのようである。

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