海辺のリアの映画専門家レビュー一覧

海辺のリア

小林政広監督と仲代達矢が「春との旅」「日本の悲劇」に続き三度組んだ人間ドラマ。認知症の疑いがかかった往年のスター桑畑兆吉は家族に騙され老人ホームに入居。脱走し海辺をさすらううちに妻以外の女に産ませた娘と再会し、彼の胸に人生最後の輝きが宿る。芝居をこよなく愛しシェイクスピア四大悲劇の一つ『リア王』と自身を重ねる兆吉を仲代達矢が演じるほか、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華、「蜩ノ記」の原田美枝子、『深夜食堂』シリーズの小林薫、「海よりもまだ深く」の阿部寛らが出演。
  • 評論家

    上野昻志

    見る前に想像していた通りの映画だったのに驚いた。いや、お話ではありませんよ。だいたい、この映画、基本的な設定があるだけで、物語らしい物語があるわけではないから、それは問題ではない。想像していた通りなのは、仲代達矢の一人芝居だ。老いたる俳優が、自身の老いに老いたるリア王を重ねて繰り出すセリフの数々。ホント、気持ちよさそう。ちょっとくどいけどね。それに較べると阿部寛が携帯を耳に当てながらの一人芝居=長広舌は、まだまだ修業が足りないというしかない。

  • 映画評論家

    上島春彦

    『リア王』と言われても「乱」しか思いつかない演劇オンチの私だが、この仲代と原田の父子という配役はその線をついているわけだ。もっともあちらは義理の親子。明らかに俳優仲代に宛てて書かれたと分かる脚本は、老人の生のあり様を「暴発的」狂者というより「けだるい」認知症者として描いており、その感覚がラストに向けてじわじわ裏返されていく作り。極端な少人数で広い空間を占めるコンセプトも効果的だがオチが弱い。黒木華さん他、数名もどこか手持ち無沙汰な感じ。惜しい。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    映画の形も演技の質も変わった今、日本映画が仲代達矢を活かせなくなって久しい。小林監督の仲代三部作は低予算の現代映画でも映画に品位を持たせながら、じっくりと仲代の演技を堪能させてくれる。今回は『リア王』というか原田の存在もあって「乱」の現代版(状況劇場繋がりで小林薫にも根津甚八を連想)を思わせる。元映画スターという設定など今の仲代が重ねられるが、ここでも見事に〈老い〉を演じている。それは確かに見事だが何もしない無防備な仲代を見たいという思いも。

1 - 3件表示/全3件