ディストピア パンドラの少女の映画専門家レビュー一覧
ディストピア パンドラの少女
M・R・ケアリーの小説『パンドラの少女』を映画化したSFスリラー。真菌の突然変異により、大半の人間が生きた肉を食う“ハングリーズ”と化した近未来。生き残ったわずかな人間たちがワクチンの開発を模索する中、“奇跡の少女”メラニーが現れる……。出演は「ボヴァリー夫人とパン屋」のジェマ・アータートン、「パレードへようこそ」のパディ・コンシダイン、「アルバート氏の人生」のグレン・クローズ。これが長編デビューとなったセニア・ナニュアは、シッチェス・カタロニア映画祭で女優賞を受賞している。メガホンを取ったのは、『SHERLOCK/シャーロック シーズン3』などを手掛けたコーム・マッカーシー。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
ディストピアを扱った近年の諸作のパッチワークのよう。「アイ・アム・レジェンド」「ハプニング」といった、有名都市の廃墟を漫ろ歩いて“こんなになってしまった”と嘆く興味。そして日本の「アイアムアヒーロー」の有村架純を思わせる、ゾンビ化しない保菌者のヒロイン。“人類は地球にとってのガン細胞だ”という認識と共に文明を相対化した「マトリックス」以降の終末史観が本作の根底に流れる。それらを総合しつつ、単なるパニックではない楽天主義へと本作は向かう。そこがいい。
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脚本家
北里宇一郎
軍隊に監視された子どもたちが、窓のない教室で授業を受ける。この謎めいた導入部から惹きつけられる。パンデミックものでゾンビの要素があってと題材そのものは食傷気味。だけど味付けと調理の腕前でまだまだ新鮮な味覚を感じさせ。知的好奇心いっぱいという主役の少女のキャラクターが後半になるにつれ活きて、これがただの恐怖SFではないことがかぎとれる。大仰にいえば“人間は動物ではないはず”という祈りが込められている。傑作というほどではないが、拾い物的面白さに溢れて。
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映画ライター
中西愛子
蔓延した奇病により、生きた肉のみ食らうハングリーズが増殖する世界。人類がハングリーズの子どもたちを隔離し、研究する中、その被験者である天才少女が人類への抵抗を始める。原作がイギリス小説らしいシニシズム溢れる近未来SFで、物語も映画のクールなタッチも魅力があり、なかなかの拾い物。中性的な少女、彼女が唯一憧憬する人間の女教師、グレン・クローズ扮する科学者といったキャラたちの造形も興味深い。終わり方が衝撃的で、戦慄と共に、ファンタジーの極致を見た。
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