全員死刑の映画専門家レビュー一覧
-
評論家
上野昻志
実際にあった事件のノンフィクションが原作で、このタイトルときては、見る前に陰惨なイメージがちらついたのだが、映画の実際は違っていた。次々と人を殺すのだから、酷い話には違いないのだが、随所に滑稽感がつきまとうのだ。それは、殺人を思い立つのも安直なら、実行も行き当たりばったりで、後始末など念頭になくやるからだ。だから、人は首を絞めても、簡単には死なず、睡眠薬を飲ませても死なないから、すべて二度手間がかかる。その成り行きが滑稽で、どこかリアルでもある。
-
映画評論家
上島春彦
意外なことに面白い。露悪的な企画かと思っていたのに俳優陣、皆健闘しているし監督も人を動かす才能がある。一家による情状酌量の余地なき犯行でも、この人たちが極悪人のような気がしない。極悪人なんだけどね。最後には、頼まれると断れない四人殺し実行犯の主人公が可哀想に見えてくるから大変なもんである。車が沈む沈まない、というシチュエーションの可笑しさは出色。ハシ休め的に挿入される病院シーンでの侏儒と美少女のSMみたいな感じも良く、監督、リンチのファンかな。
-
映画評論家
吉田伊知郎
自主映画時代に完成してしまったような最初から限界が透けて見える新人監督が多い中、小林勇貴の初商業作は〈未完成の魅力〉に満ちている。字幕を活用して説明を乱暴に飛ばす語り口といい、洗練よりも猥雑を、綺麗にまとめることよりもハミ出る勢いこそを重視した疾走ぶりが心地いい。殺人は肉体労働であることを執拗に描くおかしさは笠原和夫の「実録映画は喜劇」のテーゼの忠実な実践とも言える。石井聰亙以来の才能と惚れ込ませる小林の“狂い咲き”と“爆裂”はここから始まる。
1 -
3件表示/全3件