ローサは密告されたの映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
この映画に現出する驚くべき2つの空間――それは首都マニラのスラム街、そして警察署の裏オフィスである。スラムではお菓子屋で簡単に麻薬が買える。それにも増して、警察の腐敗ぶりは失笑を禁じ得ない。彼らは、逮捕した人間の保釈金で私腹を肥やすことにしか頭を使わない。主人公のローサは麻薬売買で拘束される。自業自得ではあるが、そんな彼女を同情せずにはいられぬほど、周囲がそれ以上に腐っている。それをひたすら空間性で見せきるメンドーサの演出に舌を巻いた。
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脚本家
北里宇一郎
リアルがゴロンとそこに転がっている感触。手持ちキャメラで人物たちを息をつめて追いかける、その緊張の糸が全篇ピンと張りつめて。まさにこれはデジタル(機材)の時代でなければ作り得なかった映画だろう。その新しい息吹を浴び、官能を刺激されながらも、このコワい現実、どうしようもない腐敗、そこから作り手が何を引き出すかを見つめたのだが。あの「自転車泥棒」の絶望の中の光。それと近いものがちらり匂ったものの、もうひと息という感が。それだけ状況が過酷なんだと溜息。
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映画ライター
中西愛子
マニラのスラム街。雑貨を売る傍ら、家計を支えるため麻薬を売る夫婦が密告され逮捕される。CM監督出身、12年前に45歳で映画監督デビューしたブリランテ・メンドーサは、スラムの構造を俯瞰でとらえると同時に、登場人物の行動に密着しながら幾重にも覆う襞を1枚1枚?いで内側の光景を見せる。全篇を貫くドキュメンタリー・タッチは、特に後半、高額な保釈金を一家が集めるべく動き出す辺りから威力を増す。言葉を失うクライマックス。それでも人々の澄んだ生命力に救われる。
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