ローサは密告されたの映画専門家レビュー一覧

ローサは密告された

第69回カンヌ国際映画祭で、ジャクリン・ホセが主演女優賞を受賞したフィリピンの麻薬撲滅運動の闇に切り込む問題作。マニラのスラム街で、小さな雑貨店を夫婦で営み4人の子供を育てるローサ。だが家計のため少量の麻薬を扱ったことで夫婦は逮捕されてしまう。監督は「囚われ人」のブリランテ・メンドーサ。共演は「罠 被災地に生きる」のフリオ・ディアス、「囚われ人」のマリア・イサベル・ロペス。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    この映画に現出する驚くべき2つの空間――それは首都マニラのスラム街、そして警察署の裏オフィスである。スラムではお菓子屋で簡単に麻薬が買える。それにも増して、警察の腐敗ぶりは失笑を禁じ得ない。彼らは、逮捕した人間の保釈金で私腹を肥やすことにしか頭を使わない。主人公のローサは麻薬売買で拘束される。自業自得ではあるが、そんな彼女を同情せずにはいられぬほど、周囲がそれ以上に腐っている。それをひたすら空間性で見せきるメンドーサの演出に舌を巻いた。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    リアルがゴロンとそこに転がっている感触。手持ちキャメラで人物たちを息をつめて追いかける、その緊張の糸が全篇ピンと張りつめて。まさにこれはデジタル(機材)の時代でなければ作り得なかった映画だろう。その新しい息吹を浴び、官能を刺激されながらも、このコワい現実、どうしようもない腐敗、そこから作り手が何を引き出すかを見つめたのだが。あの「自転車泥棒」の絶望の中の光。それと近いものがちらり匂ったものの、もうひと息という感が。それだけ状況が過酷なんだと溜息。

  • 映画ライター

    中西愛子

    マニラのスラム街。雑貨を売る傍ら、家計を支えるため麻薬を売る夫婦が密告され逮捕される。CM監督出身、12年前に45歳で映画監督デビューしたブリランテ・メンドーサは、スラムの構造を俯瞰でとらえると同時に、登場人物の行動に密着しながら幾重にも覆う襞を1枚1枚?いで内側の光景を見せる。全篇を貫くドキュメンタリー・タッチは、特に後半、高額な保釈金を一家が集めるべく動き出す辺りから威力を増す。言葉を失うクライマックス。それでも人々の澄んだ生命力に救われる。

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