生きる街の映画専門家レビュー一覧

生きる街

「ピンポン」や「パーマネント野ばら」などで圧倒的な存在感を放ってきた夏木マリ主演によるヒューマンドラマ。東日本大震災で夫を失った千恵子。離れて暮らす娘や息子とのすれ違いが続くなか、ある日、以前同じ町に住んでいた韓国人青年ドヒョンがやって来る。共演は「ユリゴコロ」の佐津川愛美、「青空エール」の堀井新太、韓国のロックバンドCNBLUEのイ・ジョンヒョン、「あさひなぐ」の岡野真也、「エキストランド」の吉沢悠。脚本を「アリーキャット」の清水匡と「捨てがたき人々」の秋山命が担当。監督は「アリーキャット」の榊英雄。
  • 映画評論家

    北川れい子

    華やかな芸能人という印象が強い夏木マリが、地元育ちのふつうの中年女性を、ちょっとガニ股歩きで演じ、かなりくすぐったい。化粧っけがなくても眉など芸能人のそれだし。東北大震災で夫が津波に流され、以来、小さな民宿を営んでいる。そんな彼女をメインとした地元密着型のヒューマンドラマで、大きな事件やトラブルは何も起きないが、そのささやかな日常はいい感じ。何度も写し出される自転車での往復や、一人でいるときの孤独の影。そうそう、終盤の食べっぷりにも嬉しくなった。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    東日本大震災を劇化することも映画に課せられた使命だと思う。取材、仮構、やがて映画として現れる、ほんとうに居るひとたちの代理のキャラクターと物語。本作が対象としているのはもはや震災の直接的な被害よりも七年経ったところでも消えないトラウマ、生きあぐねであり、そういう現在性にもなるほどと思わせられる。老いた姿をつくり、それを積極的にさらして演じる夏木マリの存在が力強い。その彼女のもとに皆が集う。あの引き寄せられかたとその幸福感は映画らしかった。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    この映画では「コミュニケーション」=「人と人の触れ合い」のあり方が様々な視点で描かれている。例えば「コミュニケーションが上手くゆかない理由は〈言葉〉に起因するものではない」と表現するため、外国人の言葉はあえて字幕によって翻訳されていないことが窺える。また、過酷な状況を自力で生き抜く強さを印象付けるのは、夏木マリが自転車を漕ぎ、押す姿を何度も挿入する点にある。彼女がひたすら、前へ、前へと進むことは自力で生きることのメタファーにもなっているからだ。

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