三里塚のイカロスの映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
前作「三里塚に生きる」に対し、本作は、三里塚闘争の支援に入った人たちを撮っているだけに、1960年代末からの空気がまざまざと蘇り、様々な想いを促す。71年の第1次強制代執行の報道を見て、居ても立ってもいられず、支援に入った少年(当時)もいれば、支援に入ったなかで現地の青年と結婚した人もいる。また空港の管制塔を占拠して8年の実刑を喰らった人もいる。本作は暗黙のうちに、彼らをそこに向かわせたのは何か、と語りかけることで、埋もれた歴史を今に呼び戻す。
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映画評論家
上島春彦
二部作の後半部となる本作は三里塚に「闘士」として入っていった人々と、農民の土地買収を担当した公団職員に取材する。御茶ノ水の坂の途中に「成田に集結せよ!」と書かれたタテ看がぎっしり並んでいたのを覚えている世代には、血が騒ぐ場面が続出。特に管制塔に活動家が乗り込んで機材をぶっ壊す一件は、本人の証言入りで価値が高い。当時、ニュース映像で我々が見られたのはこの事件ぐらい。もっともこれは運動退潮期のエピソードで、ここから後は悲しい話題が多くなるのだが。
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映画評論家
モルモット吉田
小川プロの記録映画は今でも観るが、三里塚の今には無関心を決め込んでいた。闘争で入ったまま農家に嫁いだ女たちの境遇に思いを馳せたことなどなかっただけに、土地の売却に応じざるを得なくなった家庭の元活動家女性の自死を含めた現況が語られ、これがつい最近の出来事なのかと驚く。インタビュー中、誰もが話の途中で押し黙る。飛行機の轟音でかき消されるからだ。やたらと飛ぶ蚊を手で叩き潰しながらシリアスな話をする農婦など、余白を活かした映画的な語り口にも魅せられる。
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