もうろうをいきるの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
登場する盲ろうの方々は、その状態でずっと人生を送ってきた方がほとんどで、しかも取材されるということは、その方が家族や支援者とすでにしっかりコミュニケーションが成立しているからに違いない。だからこのドキュメンタリーを観たくらいで、たとえ一部でも盲ろうの方々を理解したなどというつもりはないが、それでもこの作品を多くの人に観てほしいと思う。触れる、さわる、ということは健常者でも最高のコミュニケーションであり、人間の基本的行為でもあるのだから。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
撮影の硬質さ、客観に踏みとどまる距離の置き方が印象的。日本のハンディキャップに関するドキュメンタリーには、主観的に被写体を見つめ、そこに生じるパーソナルな親密さから、その映画を観る者に共感を求めるというスタイルが多い気がする。本作は少し違う。見ることと聞くことが困難なひとたちは、生存のための庇護ではなくコミュニケーションや社会的な在り方を求めている(と、本作を観て学んだ)。そのための世の変化と理解のために本作は感傷と涙を堪えていた。良い。
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映画評論家
松崎健夫
映画なるものが、所詮は“目が見え”“耳が聞こえる”人のための物でしかないという事実に打ちのめされ、同時に、映画だからこそ伝えられることもあると悟らせる。人との直のコミュニケーションを避ける傾向にある現代の日本社会。“もうろう”である人々の姿は、バーチャルな人間関係に依存する我々の問題に対して警鐘してみせている。本作には監督によるナレーションと劇中の言葉を視覚化した字幕が全編に施されている。劇場公開時には目を閉じてこの映画を改めて体感してみたい。
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