祈りの幕が下りる時の映画専門家レビュー一覧
祈りの幕が下りる時
連続ドラマから始まった東野圭吾原作『新参者』シリーズの完結編。滋賀在住の押谷道子が都内で絞殺される。道子は同級生だった演出家・浅居博美を訪ねようとしていた。不可解な点が多く捜査が難航する中、日本橋署刑事・加賀の亡母と繋がる遺品が見つかる。『下町ロケット』や『半沢直樹』など数多くのドラマを手がける福澤克雄が、第48回吉川英治文学賞を受賞した東野圭吾の同名ミステリーを映像化。「疾風ロンド」の阿部寛が日本橋に異動してきた刑事・加賀恭一郎を引き続き演じるほか、女性演出家役で「藁の楯 わらのたて」の松嶋菜々子が出演。
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映画評論家
北川れい子
ミステリー小説や映画における難解な事件というのは、一見、無関係な情報をいかに沢山盛り込むかということで、その点、この映画は抜かりがない。冒頭は80年代、仙台のスナックで店のママに身の上を語る女のシーン。夫と離婚、ここで働かせてほしい。やがて孤独死をすることになる女の正体は……。今回のテーマは、あえて言えば、因果な親を持った子どもの悲劇ということだが、いささか無理矢理感はあるものの、ふつうに楽しめる。阿部寛が日本橋周辺を歩く場面がいい感じ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
不勉強で原作未読。本筋ではないが、この物語世界内の倫理的感覚として、やったひとは悪くない、と許せる殺人を原発作業員である人物がおこなう意味はなんであろうか(穢れ、とか、必要悪、をオーバーラップさせうるものなのか)と思わせられるところがあり、読みうること、ストーリーというものはおもしろいものだと感じた。推理者自身の存在が事件に関係するというのはシリーズものでそう何度もできることでないのでその気合いにも打たれた。フラットな映像化だが文句はない。
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映画評論家
松崎健夫
人は社会から突然姿を消すことがある。そのことを我々は“蒸発”と呼んでいるが、決して存在そのものが消えてしまった訳ではない、というのが本作の大前提。人は他人から認識されて初めて“存在する”。この人間の存在証明を命題にしながら、複雑な人間関係を提示してゆくのである。そして観客を混乱させないため、捜査会議で使用される相関図が何度も映し出されている。ともすれば説明的なのだが、観客も脳裏に相関図を描きながら一緒に謎解きをするという効果を生んでいるのだ。
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