女の一生(2016)の映画専門家レビュー一覧

女の一生(2016)

フランスの文豪モーパッサンが人生の四季を繊細に綴った名作を「ティエリー・トグルドーの憂鬱」のステファヌ・ブリゼの監督により映画化。男爵家の一人娘ジャンヌは親の勧める子爵ジュリアンと結婚。やがて夫は不貞を重ね、さらなる苦難が次々に彼女を襲う。「カミーユ、恋はふたたび」のジュディット・シュムラが、17歳から40代後半までのジャンヌを特殊メイクを用いずに演じる。ほか、「間奏曲はパリで」のジャン=ピエール・ダルッサン、「セラフィーヌの庭」のヨランド・モローらが出演。第73回ヴェネツィア国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    言わずと知れたモーパッサン原作の文芸作品だが、格調よりも破調を、気品よりも不安定を強調した創意溢れる演出によって、紛れもない現代映画として完成している。ブリゼ監督は原作とは異なり、徹底してジャンヌの内面と記憶に寄り添うことで、ひとりの女の矛盾に満ちた一生を動的に描くドラマに再生させた。声たちと画面との分離と接合にはマルグリット・デュラスを思わせるところもあり、断片的な構成は一種の実験映画とさえ呼べるかも。それにしてもジュディット・シュムラが美しい。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    じわじわと真綿で首を絞められるような2時間。不安定に揺らぐ手持ちカメラの映像は、どこにも逃れないのにどこかに落ち着くことを許さず、抑制された色調が息苦しさを煽る。わざわざ4:3サイズに設定された画面に閉塞感を覚えながらも、より小さな正方形の中にあらゆる情報を詰め込んで演出するインスタ画面には慣れ親しんでいるのだから皮肉だ。無論、グザヴィエ・ドランのように途中で広がったりはしない。どこか他人事のように人生を見つめる眼差しが妙にしっくりきた。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    あくまでも主人公ジャンヌの心理に寄り添い彼女の視点から描こうというブリゼ監督の徹底した姿勢は、この映画を19世紀の自然主義小説というよりは20世紀の心理小説、例えばヴァージニア・ウルフやプルーストの作品のような味わいを覚えさせる。客観的説明描写が無いため、夫の死の件などやや判りにくいが、一貫したスタイルには説得力がある。トリュフォー以降、映画評論家にとかく評判の悪いストーリー主義になりがちな文芸映画の弊を免れ、すぐれた女性映画になっている。

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