婚約者の友人の映画専門家レビュー一覧

婚約者の友人

エルンスト・ルビッチ監督が1932年に「私の殺した男」として映画化したモーリス・ロスタンの戯曲を「彼は秘密の女ともだち」のフランソワ・オゾン監督が大胆に翻案。20世紀初頭ドイツを舞台に、戦死した男の謎めいた友人と残された婚約者が織り成す交流を綴る。出演は「イヴ・サンローラン」のピエール・ニネ、本作で第73回ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した「ルートヴィヒ」のパウラ・ベーア。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    落ち着いた語り口と擬古的な画面造型に魅せられながらも、しかしオゾンなのだから必ず何か仕掛けてくるだろうと用心しつつ観ていくと案の定、中盤からミステリアスな展開となる。だがこれだけでは済まないだろうと思って観ていくと微妙に先が読めなくなり、そもそもどういうジャンルの映画なのかも判然としなくなった矢先に、意味ありげなシーンで終わってしまうのだった。モノクロとカラーの色分けはややわかりにくいような気もします。パウラ・ベーアの知的で繊細な美しさが良い。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    黒いロングコートと帽子をまとって墓地を訪れる女。彼女はそこで一人の男性とすれ違う。葬られているのは彼女の戦死した婚約者フランツ、男性は彼の友人だった。端正なモノクロ―ムで撮られた十字架の立ち並ぶ墓地で出会った男女。これは他人の死後の世界を生きる者たち、生き残った亡霊たちのドラマである。フランツありし日の過去とそれに准ずる瞬間のみがカラーに切り替わるが、それによって陰影に富んだモノクロの世界がより際立つ。喪失が人間にもたらす機微のなんと豊かなこと。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    ルビッチの映画というよりは、その原作の戯曲から想を得ているが、オゾンならではの繊細で緊張感に満ちた心理劇だ。第一次大戦直後のドイツが舞台。戦場で人を殺した者の贖罪意識と、殺された側の家族や恋人の喪失感や悲しみがモチーフとなっている。核や近代兵器の進化で、戦争が人と人の殺し合いだという素朴な観念が希薄になりつつある昨今、訴えるものは大きい。ピエール・ニネの醸し出す中性的で貴族的な不思議な雰囲気が素晴らしい。モノクロを交えた画面構成も効果的だ。

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