泣き虫しょったんの奇跡の映画専門家レビュー一覧
泣き虫しょったんの奇跡
アマチュアからプロ棋士になった瀬川晶司の自伝を「空中庭園」の豊田利晃が映画化。子供のころからプロ棋士を目指していた“しょったん”こと瀬川晶司は、年齢制限の壁に阻まれ夢破れる。奨励会退会後は平凡な生活をしていたが、改めて将棋の面白さに気づく。出演は、「羊の木」の松田龍平、「トイレのピエタ」の野田洋次郎、「エルネスト」の永山絢斗、「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」の染谷将太、「愚行録」の妻夫木聡、「HERO」の松たか子、「ちはやふる」シリーズの國村隼。第42回モントリオール世界映画祭フォーカス・オン・ワールド・シネマ部門正式出品作品。
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映画評論家
北川れい子
主人公のしょったんは、天才ではなく執念の人。年齢制限という壁に阻まれても何としてもプロの棋士になりたいという執念。実話の映画化だけに主人公は、紆余曲折を経てその夢を実現するが、その紆余曲折がゆるいエピソードばかりで、場面はあってもドラマがない。思うに将棋が好きというよりもプロになるということへの執着が勝っているようで、周囲もいい人ばかり。豊田監督は主人公の執念を格別謳い上げているわけではないが、キャスティングが贅沢なだけに話の薄さがもの足りない。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
又吉直樹原作の「花火」の映画化を観て、悪くなかったけれど夢破れることがこんなに甘やかでいいのかとも思った。本作は実話である敗者復活物語だが、まず訪れる敗退はまったく苦く、痛い。その直前の、自分は選ばれし者なのかどうか、という焦燥の日々も気が狂いそうなものとしてきちんと描かれていた。勝敗のある生というコースに入ったひとの物語という普遍性。弱さ、敗北、挫折をよく知るがゆえに本作は「3月のライオン」「聖の青春」より強い将棋映画となっているようだ。
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映画評論家
松崎健夫
この映画は誰かの人生を傍観しているようである。誰かが突然いなくなったり、いつの間にか会う機会がなくなったり、あるいは、自分の人生に関わらなくなったり。そんな些細な人の往来がリアルに描かれているからだ。人の成長は周囲の人によって構成されていることを、登場人物の去来によって表現しようとしているように見える。そのことと共鳴するように、これまで豊田組を去来してきた役者たちが続々と出演。その邂逅と思慕もまた、この物語と監督の人生とを共鳴させるのである。
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