ありふれた悪事の映画専門家レビュー一覧

ありふれた悪事

モスクワ国際映画祭で主演男優賞と最優秀アジア映画賞を受賞したサスペンス。韓国民主化直前、刑事のソンジンは国家安全企画部の室長ギュナムから、連続殺人事件の犯人の捜査を命じられる。しかしそれは、国民の目を欺くために仕掛けられた完全な捏造だった。出演は、「リバイバル 妻は二度殺される」のソン・ヒョンジュ、「愛の棘」のチャン・ヒョク、「海にかかる霧」のキム・サンホ、「国際市場で逢いましょう」のラ・ミラン、「アシュラ」のチョン・マンシク、「アシュラ」のオ・ヨンア、ドラマ『太陽の末裔』のチ・スンヒョン、「技術者たち」のチョ・ダルファン。
  • 翻訳家

    篠儀直子

    家族や忠誠心を人質にされて忍従を強いられていた者がついに爆発し、勝ち目のない殴りこみをかけるという任侠映画形式。とはいえ実際の歴史どおりそのあとちゃんとカタルシスがあって、ここに至ると、あまりの盛り上がりにもはや涙で画面が見えない。権利が制限されていた時代を記憶している国が持つ強さというものも考えさせられる。登場人物はおおむねステレオタイプ気味だが、たたずまいからして圧倒的な主演男優をはじめとして、親友の記者役、後輩刑事役の俳優も強い印象を残す。

  • 映画監督

    内藤誠

    『釜山港に帰れ』の歌が日本でもヒットして、その映画化の脚本を書くために八四年初頭、韓国に行った。結局、日韓合作はまだ無理な時代で、この映画の雰囲気は分かる。冒頭の学生たちが逮捕されていく場面から、ヒョンジュ熱演の刑事が年老いて、裁判される場面まで、ボンハン監督の時代の切りとり方には感動した。ベトナム戦争の影響や階級的視点も物語に組み込み、新聞記者と公安警察関係の配役、街の雰囲気、すべてに現実感とサスペンスがある。ラストシーンのデモ行進も泣かせる。

  • ライター

    平田裕介

    華城連続殺人事件をモデルにした事件を登場させ、そこに軍事政権下に悪名を馳せた国家安全企画部の暗躍を絡めていく。そんな物語にハートの導火線にはバチバチと火が点き、さんざん酷い目に遭わされた主人公が拳銃を手に立ち上がる頃には完全燃焼or大爆発……になるはずだったが、突如として“泣き”を重視したドラマへと舵を切り出すので面食らってしまった。それも韓国映画では定石の展開ではあるが。「アシュラ」的ノリが大好物の者にとっては、すさまじい寸止めを喰らわされた感じ。

1 - 3件表示/全3件