二十六夜待ちの映画専門家レビュー一覧

二十六夜待ち

佐伯一麦による同名小説を「海辺の生と死」の越川道夫監督が映画化。震災で何もかも失い福島の叔母の工務店に身を寄せる由実は、路地裏にある小さな飲み屋で働き始める。だが、店主の杉谷は記憶をすべて失い、自分が何者かさえ分からない孤独を抱え込んでいた。出演は「悼む人」の井浦新、「愛を語れば変態ですか」の黒川芽以、「島々清しゃ(しまじまかいしゃ)」の山田真歩、「海のふた」の鈴木慶一、「笑う招き猫」の諏訪太朗。撮影を「永い言い訳」の山崎裕、音楽を「アレノ」の澁谷浩次が担当する。
  • 評論家

    上野昻志

    黒川芽以の由実は、人と接しないときの表情に孤独を宿す。井浦新の杉谷は、居酒屋の客の冗談に返す言葉に戸惑うところに、この暮らしに馴れながらも落ち着けないさまを表す。そして、なぜか由実の叔母(天衣織女・好演)が入院した病院で、自分の義足について語る女(山田真歩)が印象深い。それは彼女が、失われた記憶や思い出したくない記憶を言葉に出来ない由実と杉谷の「記憶」のありようを照射するからだ。江戸庶民の切ない願いを託す二十六夜待ちは、いまも秘かに生きていた。

  • 映画評論家

    上島春彦

    答えのないミステリーというギミックが効果的、真実は月光だけが知っている、という作りである。新の「光」での壊れっぷりは見事だったが、こちらも実は彼が壊れた地点から静かに始まっていたわけだ。演出としては、劇的な趣向を持て余した観のある「海辺の生と死」よりも本作の方が一枚上手。端的に言えば、主人公二人がセックスするごとに関係が少しずつ進展するこちらの方が語りやすかったのだろう。二人の相性もいいし。市役所職員に扮する諏訪太朗にとっても代表作となった。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    「光」と同じく井浦の静謐な演技に魅了される。記憶を失くした男と、過去を失って虚無的になった女という設定は小説では有効だが、映画となると男の側は料理や周囲の人々の描写で立体的になるが、女の側が弱くなる。事務所で電話中の叔母に平気で話しかけるヒロインのズレ具合が反映されるかと思ったのだが。井浦の拠り所となる小さな料理屋がロケセットゆえに狭く、包丁さばきも自ら見せるだけに撮影所時代ならばセットの店が主人公にとってかけがえのない場所として輝いただろう。

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