被ばく牛と生きるの映画専門家レビュー一覧

被ばく牛と生きる

2011年の原発事故で被ばくした経済価値のない牛を生かし続ける畜産農家を追ったドキュメンタリー。事故から2ヶ月後、国は“警戒区域”にいるすべての家畜の殺処分を指示。だがいくつかの農家は納得できず、膨大な餌代を自己負担しながら牛の命を守っていた。音楽を「東京に来たばかり」のウォン・ウィンツァン、ナレーションを「学校」「花戦さ」の竹下景子が担当。監督は、本作がデビューとなる松原保。
  • 映画評論家

    北川れい子

    被曝牛の殺処分については、原発絡みの記録映画やテレビのドキュメンタリーなどでそれなりに知ってはいたが、本作はキレイごとも本音も超えた人間の不条理に迫る力作だ。放射能に汚染され経済価値はゼロの牛でも、いま生きている牛は殺せないと、餌代を工面して生かし続ける畜産農家の方々。冒頭近くの、牛舎で餓死した牛たちの無惨な姿に思わず目を伏せつつ、その一方、もし原発事故が無かったら、当然のように屠殺場に送られ食肉化したに違いない牛たち。人間界と連動して怖い。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    うっすらと希望の牧場ふくしまと吉沢正巳氏に興味は持っていたが追えていなかったところ、本作で知ることが出来た。ほかの被曝地域畜産家の苦しみも印象に残る。そして牛の死骸の映像。それは、そのままに強烈であり、同時に原発事故被害の象徴でもある。我々もそうなりうる、経済の論理と政策から外れて棄てられる生命が陥る惨状。吉沢氏のドンキホーテ性は、国と、あのような事態を無視できる者が持つ、自覚なき巨大な狂気を刺す、人間的な怒りにして純金の狂気。支持したい。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    自然災害における〈復興〉とは時間の経過とともに状況が良くなり、改善されてゆくはずなのだが、この映画で描かれる状況は時間の経過とともにどんどん悪化。その姿は〈復興〉と程遠い。本作は原発事故によって被曝した牛を題材にしながら“ふるさとを守る”ことの意味を問うている。この点には同意できるのだが、後半に環境省へと出向くくだりが最悪で、全く同意しかねるのが難点。だが、「不都合な真実2」と併せて観ることで現代社会の何かが見えてくる。僕は原発なんていらない。

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