荒野にての映画専門家レビュー一覧

荒野にて

主演のチャーリー・プラマーがヴェネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞に輝いたヒューマンドラマ。父と2人暮らしの少年チャーリーは、孤独な日々の中で、競走馬リーンの世話をすることとなる。リーンとの絆を深めてゆくチャーリーだったが……。共演は「ボーイズ・ドント・クライ」のクロエ・セヴィニー、「スターリンの葬送狂騒曲」のスティーヴ・ブシェミ。監督は「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    これがガス・ヴァン・サントの新作ではないなんて……。15歳の少年はオレゴン州ポートランドにある競馬場で仕事を見つけ、ワシントン州スポケーン市で過ごした中学時代の思い出を抱えつつ、馬を救うためにワイオミング州を目指す。筆者はスポケーン市に暮したことがあり、北西部の風景、郊外、人々のアクセント、ピックアップのトラック、トレーラーハウスまでが懐かしく感じられた。主演俳優は「マイ・プライベート・アイダホ」のリヴァー・フェニックス以来の繊細な演技で魅力的。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    A・ヘイ監督の、心の内を静かに見つめるうまさは前作「さざなみ」で証明済み。今回はさらに磨きがかかったよう。その一つがアメリカンビスタで撮影したこと。結果、画面(広大な荒野)に映る人間がより小さく見えて、居場所を失くした少年の孤独や寂寥が胸をヒリヒリさせる。主人公を演じる俳優の申し分ない容姿と繊細な演技は、これ以上悪いことが起きないようにと、終始気をもませる。彼を取り巻くブシェミをはじめ、クセ者俳優の面々の存在がそれに貢献大なのは言うまでもない。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    少年に降りかかる過酷な現実がつらい。恵まれているとは言えない環境で育ちながらも、慎ましく誠実に生きていただけなのに、試練ははるかに重く、大人たちは彼に過剰に手を差し伸べることもしない。たった一人で荒野に放たれた少年の孤独が胸を打つのはそれが真理だからだ。少年を演じるチャーリー・プラマーは繊細なのに力強く、広大なアメリカ大陸の光景はその圧倒的な野生ゆえに厳しいが、同時にたくましさと豊かさを感じさせる。寄り添いながら歩く少年と馬の姿はとても尊い。

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