ベロニカとの記憶の映画専門家レビュー一覧
ベロニカとの記憶
英国ブッカー賞受賞小説『終わりの感覚』を「めぐり逢わせのお弁当」のリテーシュ・バトラが監督したミステリードラマ。引退生活を送るトニーの元に、弁護士から一通の手紙が届く。それによると、40年前の初恋の人の母親がトニーに日記を遺しているという。出演は、「ミス・シェパードをお手本に」のジム・ブロードベント、「さざなみ」のシャーロット・ランプリング、「つぐない」のハリエット・ウォルター、ドラマ『セルフレス 覚醒した記憶』のミシェル・ドッカリー。
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
ジュリアン・バーンズの原作小説は読んでいた。ハリウッドやニッポンとは違い、原作厨(笑)も納得の格調高い映画化。英国的情緒に彩られた微温的なイヤミスともいうべき物語を、バトラ監督はあくまでも正攻法で撮っている。ネタバレ厳禁だと思うのでまだるっこしい書き方になってしまうが、あの意外(?)な結末は観客の性別と年齢によって受け取り方が異なるかもしれない。そもそも映画化向きの設定なんだよねこれ。しかしシャーロット・ランプリングの見事な老い方には感動する。
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映画系文筆業
奈々村久生
バトラ監督は以前「めぐり逢わせのお弁当」がとても面白かったので楽しみにしていたら、期待を裏切らない面白さだった。男性が安全な場所から過去を振り返るドラマはたいてい都合よく美化されていて虫酸が走るけれど、その甘美なノスタルジアを逆手に取って覆し、さらに未来を見据えた射程距離の長さ。人の記憶の不確かさと業の深さを糾弾しながらも受け入れ、叙述トリックに溺れることなくミステリーに仕立て上げていて見応えがある。この成熟した手腕がまだ38歳とは。
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TVプロデューサー
山口剛
純文学的ミステリとも言えるジュリアン・バーンズの傑作『終わりの感覚』の完璧な映画化である。ディラン・トマスに憧れ詩人を志した学生時代の甘く苦い初恋と静かな晩年が鮮やかな対比で描かれる。一通の手紙から忘れていた初恋の行方が主人公の心を揺さぶる。満を持した如く登場する何十年ぶりに会う初恋の人、橋の上に佇むシャーロット・ランプリングをとらえたショットは、主人公になった如く心を動かされる映画的快感だ。そこから始まる意表をつく展開。監督の手腕は見事だ。
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