谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE「悪魔」の映画専門家レビュー一覧

谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE「悪魔」

近代日本文学を代表する作家・谷崎潤一郎の短編を下地にした現代劇集のうち、「光と血」の藤井道人監督が人間の強迫観念を映し出すドラマ。大学進学のため林邸で下宿し始めた佐伯は、林家の親戚筋にあたる鈴木から大家の娘・照子に近づかないよう警告される。出演は「太陽を掴め」の吉村界人、「雨にゆれる女」の大野いと、「ホテルコパン」の前田公輝ほか。
  • 評論家

    上野昻志

    どんな狙いがあっての谷崎かはわからぬが、「TANIZAKI TRIBUTE」として束ねられた3作品のなかでは、「富美子の足」が一番、面白かった。3人の俳優の熱演もあるが、足を主題にしながらイメージの広がりがあったからだ。それに較べ他の2作は、話にまともに取り組み過ぎて、視野狭窄に陥っている。「悪魔」も同断で、最初から、主人公は鼻血を出しすぎるし(苦笑)、彼を誘惑する小悪魔も型通りで、いまいち魅力に乏しい。彼女に執着する男にしても、執着ぶりが平板だし……。

  • 映画評論家

    上島春彦

    吉村界人と大野いとに外れなし、という個人的見解はここでも有効。いとは『あまちゃん』の田舎者アイドルも絶品だったが、こういう小悪魔も無理なくはまる。吉村は例によってエキセントリックなキャラ、一見攻撃的だが実は自己の弱さを自覚して内省的なところが深いね。二人の間に割って入る前田公輝と遠藤新菜も新鮮。物語設定の現代へのアダプテーションが「窃視」のシステムも含め、あまりにすんなりと行きすぎてかえって面食らう。谷崎って、言われなければ分からないくらいだ。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    市川崑が「鍵」の脚色で意識したように、谷崎は映像を喚起させやすいだけに安易に映像へ移し替えると失敗する。現代を舞台にするというのも安易だが、それが存外に上手くいったのは古めかしい下宿屋の空間を周到に配置したことで、過去と現在が混在化したかのような世界を醸成できたことが大きい。そこに時代性を超越した顔立ちと存在感の吉村が暮らすことで原作に沿った映画化が実現できたとは言えるが、スカトロジーを予感させる娘の排泄物への固執が軽く描かれるだけなのは不満。

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