ラッカは静かに虐殺されているの映画専門家レビュー一覧

ラッカは静かに虐殺されている

「カルテル・ランド」のマシュー・ハイネマンによるドキュメンタリー。イスラム国に制圧されたシリアの街ラッカ。海外メディアも報道できない惨状を世界に伝えるため、匿名の市民ジャーナリスト集団“RBSS”が結成され、街の実態をSNSに投稿していく。製作総指揮は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作「闇へ」監督のアレックス・ギブニー。英国アカデミー賞ノミネート、シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭審査員賞受賞作品。
  • ライター

    石村加奈

    世界各地で活動するRBSSメンバーの様子をぐるぐるつなぐ構成は、記念写真で笑顔になれない彼らが晒されているリアルな恐怖を、浅はかな私にも教えてくれる。命を狙われたアジズの、煙草を持つ手の震えを捕らえたカメラは“聖戦”に命をかけるタフな彼の足も、肩も、全身が戦いていることをしっかりと見せる。やがて疲れ果て、眠りに落ちた彼がある音で目を覚ますシーンに、闘士のよるべなさ、脆弱さが立ち上がる。しんどい映像が続くが、希望香るラストの笑顔までしっかり見届けたい。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    ISIL対SNS。まさに現代を代表するダビデとゴリアテの戦いだ。シリア北部ラッカを占領後、ISILはここを「首都」と定めるが、レジスタンスはネットを武器にする。彼らは虐殺され、亡命を余儀なくされ、ISILの広報は暗殺の恐怖を煽り続ける。画面を見るかぎり、追いつめられているようにしか見えないが、退却こそ彼らの戦術だ。リトリートしながらカウンターアタックを繰り出す。悲しいかな、閉塞せる日本でもリトリート戦術が有効となる日が近いかもしれない。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    地元ジャーナリスト集団がSNSで世界中にラッカの現状を発信する。今、そこで起きている公開処刑などを。ツラい。痛い。怒りがわく。ISも同様にSNSでプロパガンダを発信。こちらは米映画みたいにカッコいい。つられて若者や子どもたちが志願する。映像が武器となって現実に影響を及ぼす、そこには両面性があるのだと。この作品、編集と音楽がちと威勢がよすぎの気もして。が、ISに殺人予告をされた男がいて、そのからだの震えをカメラが凝視する。そこに本物の映像の重みが。

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