見栄を張るの映画専門家レビュー一覧

見栄を張る

シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の助成で製作された藤村明世監督による長編デビュー作。東京で女優を目指す28歳の絵梨子。ある日、姉の訃報を受け和歌山へ帰郷した彼女は、疎遠だった姉の仕事が葬儀で参列者の涙を誘う“泣き屋”であったことを知る。出演は「イノセント 15」の久保陽香、「光(2017・日・大森立嗣監督)」の岡田篤哉、「ねこにみかん」の辰寿広美。撮影は「ウォーターボーイズ」「母 小林多喜二の母の物語」の長田勇市。
  • 映画評論家

    北川れい子

    アラまた、お呼びのかからない女優が主人公なのね。「ピンカートンに会いにいく」の内田慈も、「犬猿」の筧美和子も、年齢や設定は異なるがアイドル崩れの売れない女優。ま、それはいいとして、主人公の無神経さが、そのまま脚本、演出の拙さになっているのがつらい。シングルマザーだった姉の訃報で話が動き出すのだが、そうアッサリ人を死なせるな。しかも姉は“泣き屋”をしていて、その上、同業者まで登場。いくら地方が舞台でもどこの国の話かと思う。星の一つはケナゲな少年役に。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    ゼロ年代中国映画に葬儀の泣き女を描く「涙女」というのがあった。この商売はいまも中国韓国ベトナムなどにあり、かつては日本にもあった。「涙女」は都会生活に失敗した女性が田舎で泣き女となって再生する話でアジア的土着が救いにもなるみたいな方向だが、本作ではその商売はもうちょっとフィクション的で、プライドと真摯さの釣り合いがとれてない女優である主人公が演じることを見つめ直す契機として機能する。見終えると平凡な言葉である本作題名に血が通うのが感じられる。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    東京に生きる“意識が高そうで実は意識の低い”地方出身で女優志望という今も昔も変わらぬヒロイン像。その普遍性を都会ではなく、地方で描いているのが本作の真髄。女優・久保陽香と女優であるヒロインが、現実と映画の中の現実との狭間で入れ子の状態を形成。泣き屋という特異な職業を題材にしながら、女優という特異な職業が何であるかを解体しつつ、〈泣く〉ことにおける演技論をも暗喩させてみせている。同時期公開の「たまゆら」とは異なる魅力を放つ久保陽香が出色。

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