あの日のオルガンの映画専門家レビュー一覧

あの日のオルガン

戦時中に多くの園児たちを疎開させ東京大空襲を逃れた保育園を、戸田恵梨香と大原櫻子のダブル主演で映画化。1944年、空襲が激しさを増す中、東京・品川にある戸越保育所の保母は幼い園児たちの命を守るため、親たちを説得し、埼玉の寺に集団疎開させる。監督は、長らく山田洋次監督との共同脚本や助監督を務め、「ひまわりと子犬の7日間」で初めてメガホンを取った平松恵美子。久保つぎこの『君たちは忘れない-疎開保育園物語』(2018年、『あの日のオルガン 疎開保育園物語』に改題、加筆・修整され復刻)をもとに、園児たちの命を守り育てた保育士たちの物語を描く。
  • 評論家

    上野昻志

    小学生(当時は国民学校)の疎開は、身近に知っていたが、保育園児の疎開が実際にあったというのは、初めて知った。国が進めた学童疎開と違って、就学前の子どもを自力で疎開させるということには、親の反対も含めて相当の抵抗があったと思う。それを押し進める戸田恵梨香演じる保母の厳しさと、子どもと一緒になって遊ぶ大原櫻子の無邪気さとの対照が、うまく効いている。総じて保母たちと子どもとの関係も自然でいいが、その裏面にある、親たちが東京で受けた戦争の表現が弱い。

  • 映画評論家

    上島春彦

    初の演出作品でここまで堂々たる大作を任されたら監督冥利に尽きるであろう。太平洋戦争下、保育園児の初の集団疎開という地味な題材。しかしながらキャラクターの描き分けが的確かつユーモラスなおかげで大いに楽しめる。直情径行型の戸田と、あまりに天然な大原のコンビが抜群だ。どっちを欠いても成立しない物語。田舎者の偏狭さのせいで淡い恋情が踏みにじられるエピソードは痛ましいものの、こういう現実は普通にあったに違いない。実話の教訓性を極力抑えた構成も効果的だ。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    過去に何度か企画されながら実現しなかった本作が映画化されたのは、ここ数年疎開やら空襲という言葉が平気で使われるようになった危機感の現れか。従来の学童疎開もののパターンから離れ、保母たちの女性映画になっているところが新基軸。幼児たちと同じ目線の大原と、彼女に厳しい戸田との関係性などは目新しくないが、やはり大原の存在が際立つ。ライブで観客を沸かせて歌う姿が、オルガンを弾いて園児たちと歌う姿にトレースされ、今の娘にしか見えない欠点を補って余りある。

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