ナポリの隣人の映画専門家レビュー一覧

ナポリの隣人

「最初の人間」のジャンニ・アメリオ監督によるヒューマンドラマ。ナポリのアパートに独り暮らす元弁護士ロレンツォと、母の死をきっかけに父と不仲になった娘エレナ。だが、父の隣家の家族に起きた予期せぬ事件をきっかけに、その関係を見つめなおすことになる。出演は、本作でイタリアの国内主要映画賞三冠を達成した「親愛なる日記」のレナート・カルペンティエーリ、「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」のジョヴァンナ・メッゾジョルノ、「我らの生活」のエリオ・ジェルマーノ、「ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀」のグレタ・スカッキ、「歓びのトスカーナ」のミカエラ・ラマッツォッティ。撮影を「グランドフィナーレ」のルカ・ビガッツィ、音楽を「孤独な天使たち」のフランコ・ピエルサンティが担当。原作は、現代イタリア文学を代表するロレンツォ・マローネのベストセラー小説。イタリア映画祭2018にて『世情』のタイトルで上映。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    現実社会では年老いて頑なになったお年寄りを敬遠しがちだが、気づいたら自分が頑固じいさんになっているのではないかと不安で仕方がない。本作のロレンツォという登場人物も、弁護士という仕事や浮気のせいで、娘や息子から見放されている孤独な老人。そんな彼が、隣に引っ越してきた若い家族と親交を深めて、家族の代理を見つけていく。映画のテーマって家族ばかりだなと思っていたところへ、かなり唐突にある事件が起きる……。紋切り型から逸脱していく後半の展開はショッキング。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    妻に先立たれ、子どもともうまくいかない独居老人が、隣人に恵まれて幸せを取り戻す話かと思いきや、そう単純ではなかった。確かに隣人とは表面的にいい関係になるが、実はこの一家の問題は何も知らなかった。いや、描かない。そういえば、主人公と娘も溝を埋める言葉は互いに交わさない。なぜ? 隣家の事件をきっかけにドラマが引き締まり、終盤で詩を引用した娘の「幸せは目指す場所ではなく帰る家だ」で理由が判明。言葉でも血縁関係でもない、寄り添う愛が満ちて、話は深い。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    視点を現在に絞ったストーリーテリングにより、登場人物の過去は最低限の描写におさめられ、セリフの断片などに垣間見られる程度。これがサスペンス的な効果よりも思わせぶりな印象を強める。こじれた実の家族より素性の曖昧な隣人に介入していく老人の心理も、わからないわけではないし十分あり得ることなのだろうが、物語の中で説得力を与えるには不親切と言わざるを得ない。結果として、それぞれが身勝手に動いた結果、都合よく解釈して丸く収まる。それもまた真理なのかも。

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