私は、マリア・カラスの映画専門家レビュー一覧
私は、マリア・カラス
伝説的オペラ歌手マリア・カラスの人生を未完の自叙伝や封印されたラブレター、未公開映像などから紐解くドキュメンタリー。スキャンダルやバッシングの中でも歌い続ける“カラス”と、一人の女性として愛を切望する“マリア”の姿を彼女自身の言葉と歌で綴る。監督は、本作が初長編となるトム・ヴォルフ。朗読を「永遠のマリア・カラス」でカラスを演じたファニー・アルダンが務める。
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ライター
石村加奈
強いディーヴァの印象が強かったので「私のために祈ってね」という歌姫は少女のように可憐で、ちょっと意外だった。母や夫のために、歌い続けたカナリア、じゃなくて、カラスは、オナシスと出会い、すっかり顔つきが変わる。歌ひと筋の人生から羽ばたき、目の前に広がる美しい世界で、険のとれた、穏やかな眼差しで、楽しげに歌う姿は、しあわせそのもの。ゆえにその後、彼女を襲う悲劇を前に「打ち勝つ力をお与えください」と祈る姿は哀しいが、歌姫は甦るのだ、そうエレガントに。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
マリア・カラスという人は「顔」の人だ。奥深く豊饒な歌声も素晴らしいが、毒々しさをも含むディーバ的相貌によって記憶され、そのイメージはスキャンダルで補強される。カラスとして生まれたからにはカラスとして生きるほかなしという自明の事実が、これほど悲劇的トーンを帯びてしまうのはなぜなのか。さまざまな「タラレバ」のプリズムを増幅させるからか。パゾリーニ「王女メディア」(69)出演後も長生きして女優活動にシフトしていたら、彼女にはどんな役があったのか。
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脚本家
北里宇一郎
カラスの生涯を彼女の歌で綴って。この前のクラプトン映画と同じように、他者の証言は一切なし。ご本人のインタビューと自叙伝からの言葉で綴っていく。潔い。秘蔵・蔵出し映像も満載で、それを編集機の画面で見せたところに、この監督の映画スタイルが匂う。カラスを神格化せず、ひとりの女として描く。が、いくら私生活を見せても生臭さはない。やっぱり彼女は偉大なるアーティストとばかりに、その歌声をたっぷり聴かせる。人間記録を背景にして、音楽映画で貫いた。そこがよくて。
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