国家主義の誘惑の映画専門家レビュー一覧
国家主義の誘惑
「天皇と軍隊」の渡辺謙一監督が、日本人の天皇、憲法、戦争観を浮き彫りにするフランス発のドキュメンタリー。国際関係史や地政学の観点から国内外の論客によるインタビューを交え、日本社会を誘う政治の正体、日本人にとってのナショナリズムを問いかける。出演は、歴史学者のピエール=フランソワ・スイリ、バラク・クシュナー、ミカエル・リュッケン、政治学者の白井聡、参議院議員の山本太郎、山田宏、ジャーナリストの金平茂紀、経済評論家の宋文洲、ミュージシャンで元参議院議員の喜納昌吉、沖縄県東村村議員の伊佐真次。プロデューサーは「映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて」のセルジュ・ゲズと「天皇と軍隊」のクリスティーヌ・渡辺。一般公開に先駆け、2018年6月15日、『第7回うらやすドキュメンタリー映画祭』にて先行上映。
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ライター
石村加奈
地政学的な見地から、日本列島が朝鮮半島や中国など東アジアの玄関口を塞ぐように位置しているという指摘には目から鱗。第二次世界大戦以前の黒船の時代まで遡り、日本が国家主義に傾倒する理由に言及する視点も斬新だ。資源がないから強い国にこだわるという見解は、東日本大震災後の日本にとって深刻。渦中では見えにくい問題点を的確に掬い上げていると思う。ところでパリ在住の監督は、取材した日本の政治家をどうチョイスしたのか? オファーからの経緯も含め気になる人選だ。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
現政権における国家主義の復活、戦前回帰傾向は論をまたない。日本人ドキュメンタリストがそれに批判的作品をフランス資本で作るのは、現在ならではの現象だ。なぜなら日本国内既存メディアの多くが政権監視の任務を放棄し、翼賛化が著しいため。それでも本作を全面的に支持しにくいのは、その教条的な説明主義が未来の運命を好転させる力を有しているか疑問だからだ。真に批判精神に富んだ記録映画とは、対象だけでなく自らの手法にも批判の眼が向けられていなければならない。
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脚本家
北里宇一郎
この監督の前作は「天皇と軍隊」。昭和天皇の原爆被災地での発言にドキリとさせられた。今作でも平成天皇の退位、その真意にふれて、わが意を得たりの気分だ。フランス在住の強みで、これが描けた――というより日本のマスコミがダラシないんだろう。作品そのものは憲法改正に向かう安倍政権体制を解析。こちらとしては自明のことが多いけど、外国人向けにひじょうに分かりやすく描写。改めて考えさせられたところも。日本は今、天皇の上に米国を置いているという歴史学者の指摘とか。
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