ソローキンの見た桜の映画専門家レビュー一覧
ソローキンの見た桜
日露戦争時代に愛媛県松山市に設けられた全国初の捕虜収容所をモチーフにした、日露合作の悲恋物語。弟を戦争で亡くしロシア兵を憎む日本人看護師ゆいは、ロシア兵将校ソローキンの手当てをすることに。いつしか惹かれ合う二人だったが、彼には密命があった。第1回日本放送文化大賞ラジオ部門グランプリに輝いたラジオドラマ『~松山ロシア人捕虜収容所外伝~ソローキンの観た桜』を映画化。監督はオールロシアロケ作品「レミニセンティア」の井上雅貴。「2つ目の窓」「海を駆ける」の阿部純子が、ロシア人将校と運命的な出会いをする日本人看護師とその子孫のTVディレクターの二役を演じる。2019年3月16日より愛媛県先行ロードショー。
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評論家
上野昻志
いま、なんで日露戦争絡みのお話なのか? まさか、日ロが、北方領土を棚上げしたまま平和条約を進めようとしていることへの後押しでもなかろうが。それはともかく、説明的な言葉や演技が眼につくわりに、人物像の描き方が稀薄で底が浅い。ソローキンは、ロシアの第一革命に加担してスパイ活動をしているというのだが、それも説明だけ。となると、あとは、日本の看護婦との恋の物語だけになる。日露戦争では、日本も太平洋戦争では無視した捕虜の保護をしたというのが唯一の教訓か。
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映画評論家
上島春彦
実話というか史実に触発された物語、ということかな。斎藤工は真相を知っていて阿部純子をロシアに連れて行ったのだろうか、どうも分からない。編集で切ったのかな。そうしたもやもやは欠点だが、他は面白い。特に恋人たちが歳月を隔てて日記で再会するというコンセプトが秀逸だ。脚本家はこの趣向で「いける」と思ったのだろう。帝政からロシア革命へ、という時代の動向に愛媛松山市民の進取の気性が相まって、明治というより何かもっと現代的な物語を、この映画は紡ぎ出している。
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映画評論家
吉田伊知郎
日本とロシアを股にかける監督に相応しい企画かつ、どちらかの国を過剰に顕彰する作りになっていないので安堵。ロケーションも良く、時代の再現ぶりやルックも凝っているだけに、現代パートが不要に思える。捕虜収容所ものとして正面からドラマを作ることが出来る材料が揃っているだけに、終盤の怒濤の展開がモノローグで処理されてしまうのは拍子抜け。「孤狼の血」に続いて阿部純子が魅力的なこともあり、全部とは言わないまでもサスペンス豊かなメロドラマになり得たはず。
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