追想(2017)の映画専門家レビュー一覧

追想(2017)

ブッカー賞作家イアン・マキューアンの小説『初夜』を、作者自ら脚本を手がけ、「レディ・バード」のシアーシャ・ローナン主演で映画化。新婚旅行に赴いたバイオリニストのフローレンスと夫のエドワード。初夜に起きたある出来事により二人の人生が変わる。監督はドラマ『嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~』シリーズのドミニク・クック。「つぐない」でもイアン・マキューアン作品に挑んだシアーシャ・ローナンが心に闇を抱える新婦を、「ベロニカとの記憶」のビリー・ハウルが真面目な夫を演じる。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    イギリス映画が苦手だ。米語を先におぼえたので、イギリス英語が聴き取りづらいせいか。それ以上に、ドラマの前提となる社会の保守性と、自尊心が高く皮肉屋で本心をいわない人物らに共鳴できない。結婚して初夜を迎える本作の若い男女も、英国式の複雑な性格の人たちだ。ホテルの一室と浜辺で、愛しあうふたりの関係がどんどん崩れていく演劇的な場面が多く、とても観ていられなかった。……ということは、逆に本作のおかげでイギリス映画のツボが理解できたといえるのかも?

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    核心はホテルでのほんの短い時間だが、回想を織り交ぜながら数十年を描くこの映画、男女の感情をはっきりと表現する手法が、監督のドミニク・クックがもともと舞台演出家だけあって演劇的。シアーシャ演じるフローレンスの言動はエドワードのプライドを砕く威力があり、物語を主導する。初夜の性的な問題が原因で別れた男女。余韻嫋嫋のはずだったが、十数年後の再会でプツリ(★一つ減)。それでも古風な女性を演じるシアーシャの巧さには見とれる。若くして大成した感がある。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    とても好きな原作だけれど、あんなに回想が多く映像的には地味な作りの小説が、まさか映画化されると思わなかった。しかし聡明ゆえの潔癖さと融通のきかなさを漂わせるローナンと、女心が絶望的にわからない新郎になりきった英国俳優ハウルのキモさと情けなさが胸を打つ。初夜の寝室の悲劇は直視できないほどの出来ばえ。長篇映画初監督となるクックは堅実な腕をふるい、終盤には映画オリジナルのエピソードも見られるが、その飜案の仕方は男性監督ゆえの甘さとしか言いようがない。

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