運命は踊るの映画専門家レビュー一覧

運命は踊る

デビュー作「レバノン」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したサミュエル・マオズが、実体験に基づき、不条理な運命を描いたドラマ。同映画祭審査員グランプリを受賞。軍人の息子の戦死の報せを受けた夫婦。やがて、それが誤報であることが分かるが……。出演は「オオカミは嘘をつく」のリオール・アシュケナージ、「ジェリーフィッシュ」のサラ・アドラー。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    イスラエルを訪問したとき、政府の人種隔離と入植の政策に怒りを覚えたが、実は最も傷ついているのは現場に送りこまれる兵士や国民なのだろう。本作で重要なのは物語ではなく、ブラックな笑いで政治や社会を皮肉る寓意的な仕かけだ。国境の検問所に置かれた宿舎であるコンテナは、日に日に傾いて沈んでいく。軍もラビも兵士の遺体を取りちがえるほど、無気力で能力を欠いている。国民はフォックストロットのステップを踏むのだが、必ず同じ場所にもどってくるしかないあり様なのだ。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    単なる偶然と片付けてしまえばそれまでだが、そうと割り切れないのが運命の厄介なところ。主人公は軍から届いた息子の戦死と誤報の知らせを運命と受け止めている。それを3章からなる物語にしたこの映画は、S・マオズ監督の構成が優れてユニーク。イスラエルの現実をエピソードに取り込みながら、第3章に至ってストーリーの全貌が読め、エンディングで運命の正体が明かされるので、理解力・想像力が途切れると未消化になるかもしれないが、読み解き作業は映画をみる醍醐味でもある。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    寓話的なストーリーテリングとヴィジュアル的に作り込まれた構図、シニカルな世界観に「ザ・スクエア 思いやりの聖域」を思い出す。映像に込められた意図や、モチーフであるフォックストロットの形式に縛られて、完成度の高さが逆に頭でっかちな印象。ただ、息子の戦死をめぐる両親の感情的なドラマが語られる第1部から一転、当の戦場でのぬるい光景が描かれる第2部では、その退屈さがいい仕事をしている。被害者が他人だったら関係ないという、幸運の裏に宿る利己的な側面が生々しい。

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