蜜蜂と遠雷の映画専門家レビュー一覧

蜜蜂と遠雷

2017年に直木賞と本屋大賞を史上初ダブル受賞した恩田陸による同名小説を映画化。近年高い注目を浴びる芳ヶ江国際ピアノコンクールに集う若き天才たち。元神童の亜夜、不屈の努力家・明石、本命視されるマサル、そして異端児・風間塵らの戦いが始まる。監督は「愚行録」の石川慶。再起を図る亜夜を「勝手にふるえてろ」の松岡茉優が、サラリーマン奏者の明石を「新聞記者」の松坂桃李が、信念の貴公子・マサルを「レディ・プレイヤー1」の森崎ウィンが、異質な天才・塵をオーディションで抜擢された鈴鹿央士が演じる。オリジナル楽曲『春と修羅』を国際舞台で活躍する藤倉大が作曲。作中の演奏はピアニストの河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央が担当する。
  • 映画評論家

    川口敦子

    普通に呼吸できる穏やかさを芯とした映画を久々に見た気がして、秋の初めのよく晴れた日の涙ぐましさにも似たものを愉しんだ。監督の前作「愚行録」の人を見る目の静かな厳しさとも通じるそんな質は昨今、稀有な美点だろう。ただ原作の音楽にまつわる大きな感懐、人が生まれながらに抱いている寂しさを歌うといった叙述を裏打ちする言葉の力に勝る映画の力という点では物足りなさも少し。天才児たちを審査する元天才児たちのやりとりの面白さも映画に活かして欲しかった。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    松岡茉優の表情演技の素晴らしさにまず心揺さぶられる。「絵に描いたような普通」を難なくこなす松坂桃李ら主要キャスト4人が皆好演。一部の人物や展開に見られるややきつめのカリカチュア、象徴主義的なイメージの多用、演奏吹き替えによる動きの不自然さなど首を傾げたくなる箇所もなくはないが、清涼感と緊迫感は途切れず、最後にはじんと胸の奥が温かくなった。この規模の映画なら通常想定されるであろうタイアップ主題歌を流さない姿勢も大いに買いたい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    恩田陸原作の扱い方とは別に、石川監督は音楽について何を「発見」しているだろうか。世界が鳴っている。それに気づくことからの一般的な理解の道筋にはないものに出会いたかったが、ていねいだけど冒険はしないカメラとともに、程よいところで手を打った感じで物足りない。才能というものについてもそうだ。それを生み育てる一方で頓挫もさせる社会が見えない。天才じゃない松坂桃李にもう一言言わせたいし、沈黙のショット、もうひと押しあっていい。使われた演奏の質は高い。

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