22年目の記憶の映画専門家レビュー一覧
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批評家、映像作家
金子遊
何とも人を食った物語設定でおもしろい。70年代の韓国において、演技下手の舞台俳優が受けたオーディションで、演技力よりも口の堅さを認められる。そして彼は、韓国の大統領が金日成と会談をするときに備えて、リハーサル相手に仕立てるべく金日成の替え玉になるための訓練を受ける。チュチェ思想も含めて俳優が人格まで本物に成り切ったら、その後どうなるのか。「グッバイ、レーニン!」のような転倒したコメディだが、東ドイツに比べて北朝鮮の存在はまだ生々しく感じられる。
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映画評論家
きさらぎ尚
息子に「首領同志」と呼ばせ、「現地視察に行くぞ」と号令をかける役者だった父の、22年間も自分を金日成と思い込んでいるその妄執が哀しい。「リア王」の台詞の稽古をしてオーディションを受ける日々から一転、金日成を演じ続ける男が見せるあられもない姿の滑稽さは、道化師にも見えて。歴史の出来事を密度の濃い演出で父子物語へ収斂させたこの映画、父親役ソル・ギョングの大熱演があってこそ。市井の人間が味わった歴史の苦い記憶は22年くらいでは消えるものでないと胸を刺す。
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映画系文筆業
奈々村久生
文在寅と金正恩による南北首脳会談が重ねられつつある中での日本公開。しかし実は2014年と随分前の作品で、時代の流れを感じる。個人的に悪役が板につかないと感じているソル・ギョングだが「実は善良な市民」なら話は別。そんな彼が「史上最大の悪役」を「演じ」ようとするところに哀しみと可笑しみを見出し、シリアスとコメディのコントラストを効かせた本作はまさにハマり役だ。韓国では今年90年代の南北スパイ戦を描いた「工作」も公開されており、そちらもかなり見応えあり。
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