山<モンテ>の映画専門家レビュー一覧
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ライター
石村加奈
イランの巨匠、アミール・ナデリ監督ここに在り、の堂々たる痛快作だ。そびえ立つ岩山につるはしで立ち向かう、貧しき父アゴスティーノと息子ジョヴァンニ。神や自然、人間からも見棄てられた、孤独な身ひとつで限界突破に挑む、狂気に駆られた二人を、静かに見守る母ニーナ。『火の鳥』を彷彿とさせる壮大なシーンが、圧倒的なスケールで描かれる。やがて三人の瞳(邪眼ではない)が捕らえた奇跡! ひたすらに美しいラストシーンは、一見の価値あり。もちろん、大スクリーンが望ましい。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
ここに穿たれた星1個は、容易に星5個に転じうる1個ではある。だが本作を肯定するためには、まず否定の手続きを前提とするようだ。本作には人類に取り憑く土地神話がグロテスクに横たわる。故郷至上主義は、中東を見れば明らかなように不幸の始まりだ。より良い環境を求めて移ろう軽薄性こそ生物なのに、不毛の地にしがみつく執着心に対する本作の寛大さは罪深い。村民は何代もこの地に本拠を構えた。その実際的理由が隠蔽されている。自然へのサディズムが空恐ろしい。
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脚本家
北里宇一郎
うんうん唸っている映画。寒い、ひもじい、貧しい。村の人々から差別され、家族とは離ればなれにされ。もうどうしようもなくなった男が、それでも屈すまいと巨大な山に向かって闘い続ける。山が叫び、呻きの音響効果の凄さ。リアリズムからはじまったこの映画が、どこか神話的寓話に昇華される。はるか巨大な存在に対峙する人間のもがき。その孤高。そこになにかカチリとした作り手の魂を感じて。力みに力んだこの演出。それが、映画の醍醐味にもう一つつながらなかったもどかしさも。
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