惡の華の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
またしても“漫画が原作映画”の顔芝居かと、最初は嫌悪感に呑み込まれそうになったのだが、玉城ティナの嵐のような暴走ぶりに巻き込まれ、その底に厳然と息づく清らかな若さの結晶のようなものを垣間見せられるにつれて、ここでないどこかを夢見る少年と少女の当り前の青春の苦しさをまっとうに語る映画の核心が迫ってきて圧倒された。夕日の海での再会。波打ち際の3人と甘い調べ。70年代仏青春映画をふっと思わせていい。それだけに最後の歌は余計かも。
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編集者、ライター
佐野亨
凡百の監督であれば陰鬱で露悪的な表現に落とし込んでしまいかねない題材だが、思春期映画の正しき継承者である天才・井口昇は、原作漫画とがっぷり四つに組みあい、透徹した少年少女の通過儀礼の物語に仕立て上げた。教室をメチャクチャにするシーンやテント内のシーン、ラストの海のシーンに顕著な80年代アイドル映画、ATG系青春映画の手ざわりも、咀嚼され血肉となった表現だからこそ深い感動を呼ぶ。2010年代の掉尾を飾るにふさわしい青春映画クラシックの誕生だ。
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詩人、映画監督
福間健二
ボードレール。人間と世界の全体を見る目を失った詩の元祖か。その毒をよしとするデカダンスに逃げ場を求める者は多い。日本の田舎の中学生がそうなってもふしぎはない。そこからの物語。主人公の二つの時期を演じた伊藤健太郎には、大変だったねと言いたい。いいのは女の子たち。この世の極北に達するような問題児の玉城ティナに加え、他の二人も内側の泥を自覚してかつ魅力的。井口監督、乗っている。変態性以上に生を救いだした点で、過去の思春期物の秀作に一矢報いるものが。
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