影裏の映画専門家レビュー一覧

影裏

第157回芥川賞受賞の同名小説を「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が映画化。転勤で岩手に移り住んだ今野は日浅と出会い、慣れない地でただ一人心を許せる存在となる。ところが、日浅が突然姿を消す。そして、今野が知らない彼の別の顔が見えてくる。出演は、「楽園」の綾野剛、「泣き虫しょったんの奇跡」の松田龍平。
  • 映画評論家

    川口敦子

    見終えてまず原作を読むこととメモした。怠け者に律儀な決意を促した映画には、もうひとつの「ロング・グッドバイ」ともなり得るのに安易にそこに落ち着くのを拒むといった健やかな頑なさが息づき、そのもやもや感が時と共に不思議な磁力となってくる。原作を読み「ほのめかし」を核としたいかにも映画化は難しそうな一作に挑んだ監督と脚本家の闘志に打たれた。書かれなかったことを見せるのか。言われなかったことを言葉にするのか。小説と映画の間でなされた選択を反芻、吟味したい。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    深い陰翳をたたえた芦澤明子の撮影にまずつかまれる。綾野剛、松田龍平、筒井真理子、少ない出番の國村隼も安田顕もただならぬ存在感を発揮。これぞ映画、と讃えて終わらせたいところだが、観ているうちにその隙のなさ、演出の粘りが足枷となってくる。文句をつけられる筋合いなどない丁寧な仕事を成し遂げていることは重々承知しつつ、僅かでも、快い飛躍や「ほつれ」のようなものが見えてほしかった。それこそがこの物語の煮え切らなさを描くうえで重要だったとも思えるのだ。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    沼田真佑の小説はいわば純文学の典型。しっかりした文体で淡々と進む。大友監督がそれに挑む。その果敢さをよしとしたい。どうなったか。原作にかなり忠実な内容を濃い目に見せていく。自然の風景から密度ある画をつくるカメラは芦澤明子。緑、羨ましくなるほど。綾野剛の「弱い心」にまだ鮮度があり、松田龍平も役になっている。惜しいのはテンポのなさ。企画的に無理なことをあえて言うと、三・一一もゲイも抜きでやったらと思った。むしろ原作の奥にあるものに踏み込めたのでは。

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