火口のふたりの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
男の英雄神話を覆すため息子を呼び寄せる愛人の復讐/愛の物語――ベルトルッチ「暗殺のオペラ」(原題“蜘蛛の戦略”)をふと思わせもする映画は、結婚を控えかつて身も心も捧げた従兄を故郷に召喚するヒロイン、その企みの恋に先導されて終わりの世界を生きる覚悟をきめていくふたりの、もう若くない青春の寂寥にくらりとしつつまずは女の映画として堪能したのだが、実はからめとられた男の話としてこそ味わい深いのかと反芻する度、別の貌が見えてくる監督+脚本荒井3本目の快打!
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編集者、ライター
佐野亨
白石一文の小説を映画化するなら絶対に荒井晴彦(もしくは井上淳一)だろうと考えていたので、これは待望の一作。日本でもっともセックスの体位に細かい(と思われる)脚本家の作品だけにセックスシーンは大いに見せる。が、それ以上にラーメンやレバニラ、手作りハンバーグを食べるシーンのそこはかとない親密さに、映画のなかの二人に対する作り手のやさしさがにじみ出ていて、ほっこりさせられた。野村佐紀子の写真、蜷川みほの絵画の使われ方も効果的。
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詩人、映画監督
福間健二
表現への苦闘らしきものを見せない荒井監督作。大胆なのは、登場人物二人だけのその二人の間の、説明ゼリフの連発。そして二人の過去が写真で存在すること。セックス、なじみのある相手が一番という退行的物語にどう前を向かせるか。実は大変だ。グルメと震災関連の話題が浅く持ち込まれ、肝心の「気持ちいい」と「体の言い分」のアクションは苦行的。最後の非常時への追い込みも絵空事的。だが、大人の常識的チェックが入って表現は安定し、二人は破滅を免れる。退屈はさせない。
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